
23歳の高坂あかりは、「ファミリーグリル・シリウス」の新入社員。厳しい研修を経て、いよいよ仕事が始まった。あかりは研修を受けた神保町店ではなく、駅ビルに入っている池袋店に配属。研修では「筋がいい」とほめられたものの、実際の仕事は思いがけないことの連続で、うまくこなせないし、配属先の違う同期と励まし合うものの焦りが募る。両親はともに仕事で海外におり、帰る実家もない。心も身体もすっかり疲れてしまったある日、店長のいつきに誘われ「キッチン常夜灯」に行くことに。シェフが作る美味しい料理に心をほぐされ、居心地のいい空間でおしゃべりを楽しむうち、自分の中にお客さん気分が残っていたことに気づき、気を引き締める。新入社員ならではの気づきを提案したり、自分から積極的にイベントに参加したり。脱落していく同期がいる中、あかりはいま目の前にある仕事に集中すると決め、仕事に向き合っていく。
深夜営業の変わったビストロ「キッチン常夜灯」のシリーズ5作目。
過去四作と同じくファミレス『シリウス』に勤務する女性が主人公。これまでは中堅・ベテランの女性社員が主人公だったが、今回は心機一転?で新入社員の高坂あかりが主人公。
大変頼もしい新人さんでした。
学生時代とのギャップに苦しんだり、理想の自分とかけ離れた現状に苦しんだり、大小失敗をいくつもしたり、辞めていく同期を見たり。新人が直面するであろう苦悩を次々と経験していく、若者に試練を与えていくストーリー。そんな社会の荒波に飲まれていくあかりだったが、なんでもハイハイということを聞いて潰れてしまうタイプでもなく、芯が強すぎて人の話を聞かないタイプでもなく、丁度いいしなやかさを持った若者で、全体的には安心して読んでいられた。現代の若者がみんな彼女みたいだったら、世の中もっとうまく回るし、退職代行サービスなんてものは存在しないのに、と思うくらいには強い子だった。
そんな彼女でも当然落ち込むことはあるわけで。その凹んだ時に救われたり、頑張る理由を与えてくれていたのが「キッチン常夜灯」。
シェフとソムリエの堤さんの作り出す店の空気と、美味しそうな上に滋味あふれる料理の数々で、相変わらず最高に羨ましい空間になっている。料理の説明からレシピの歴史、食べた客の感想まで丁寧に描写されるから、とても想像しやすいのが逆に憎い。
今回は胃袋な元気な若者とあってか、肉料理も魚介類も重めのメニューが多かったのが印象的。まあ、四十路のおじさんはいつものスープの方に惹かれるんですがねw
主人公の年代が近かった過去作と違って見守る立場の気持ちで読める、新鮮な「キッチン常夜灯」だった。