いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア12」大森藤ノ(GA文庫)

結論から言えば。
それは語り継がれることのない物語だ。
誰が勝ち、誰が負け、誰が生き、誰が死に、誰が吠え、誰が嗤い、誰が哭いたのか。そこに富と名誉はなく、倒れた者は歴史に名を刻むこともなく。誰の記憶
にも残らぬまま、天の葬列に加わるのみ。
けれど、『彼女達』は臨むのだ。
巨大な悪に、邪悪極まる闇に。秩序のため、誇りのため、絆のため、『彼女達』は――冒険者達は最後の決戦に臨むのだ。
「1000年の時を越えて、もう一度冒険者達が下界平和の礎となる! ――ここに新たな神聖譚を記せ! ! 」
これは、もう一つの眷族の物語、
──【剣姫の神聖譚】──


おいおい、外伝が本編を追い抜いちまったぞ。と思ったら本編15巻の前なんだそうな。そういえば15巻でちらっと匂わせていたような気がしなくもない。でも、こんな大事件にちゃんとした言及がないのは不自然じゃないか?
という、リアル出版順の残念な事情は置いといて、

黒幕とその計画の全貌の発覚、冒険者たちの決死の抵抗、オラリオのすべてを巻き込んだ大事件が決着の時を迎える外伝12巻。
外伝ソード・オラトリア(一応の)集大成に相応しい熱さと厚さ。それと全員集合と言わんばかりのキャラクター数。いつもは敵対するフレイア・ファミリアの参戦は熱かった。ストーリーも黒幕の計画の肝である六体の精霊との闘い+神の動向+その他の多元中継で、そのどれもに因縁があり、思惑があり、想いが詰まっている。これは厚くなるわけだ。
そんな中で断トツで胸に来たのがレフィーヤの戦い。廃人からの復活、憧れの人との因縁の対決、その相手のあまりにも不幸な運命。そのどれもが目頭が熱くなる。アイズから外伝主人公の座を完全に奪っていた。
というか、アイズの戦いはあんなに扱いが軽かったんだろう。外伝でありながらヘスティア・ファミリアよりも影が薄かった。リリスケの仕事(今回の影のMVPだと思っている)はともかく、敵の切り札を倒すのはベルでなくてアイズであって欲しかったなあ。主人公なだけに。
これで外伝は一区切り。でも続きがあるようで。妖精覚醒編という名らしいので、今度こそアイズがメインであると信じている。

「シャルロットの憂鬱」近藤史恵(光文社文庫)

シャルロットは六歳の雌のジャーマンシェパード。警察犬を早くに引退し、二年前、浩輔・真澄夫婦のところへやってきた。ある日、二人が自宅に帰ってみると、リビングが荒らされており、シャルロットがいない! いったい何が起こったのか。(表題作)
いたずら好きでちょっと臆病な元警察犬と新米飼い主の周りで起きる様々な“事件”――。心が温かくなる傑作ミステリー。


閑静な住宅街に住む若夫婦と、二人が飼う元警察犬のシャルロット(♀6歳)が遭遇するご近所事件簿。
元警察犬設定が1話目以外ほとんど意味を成してないだとか、旦那さんの洞察力は時々冴えているけれど、これはミステリと言えるんだろうか?とか、ちょこちょこ首をかしげながら読んでいたのだけど、途中で楽しみ方が分かった。飼い主夫婦と一緒にシャルロットを愛でる作品だ、これ。
子供が出来ないがゆえにシャルロットを我が子のように可愛がっている夫婦の目線で見ているというのもあって、シャルロットがとにかく可愛い。
基本的には素直で従順で、元警察犬らしく躾けがしっかりされたワンコなのだけど、一皮むけばギャップでいっぱい。大型犬で元警察犬なのに臆病で、人の表情と空気を読むのが上手くて中身人なんじゃ?と思う時があるかと思えば、夢中になって散らかして後でシュンとしたり。賢い子だからこそズルを覚えていくのも、一つのギャップかな。それと小さい子には、人でも犬でも猫でも優しいのも魅力。
本来は犬同士の交流から生まれる人の繋がり、そこから生まれる人の機微を楽しむ作品だったと思うのだけど、シャルロットにメロメロで、もうそれだけでいいかと思ってしまった一冊だった。

「ぶたぶたのティータイム」矢崎存美(光文社文庫)

ふだん離れて暮らす母親を喜ばせようと、お邸のアフタヌーンティーにお呼ばれした凪子。新緑の庭に、英国風のお菓子とおいしい紅茶を運んできたのは、想像を超えた、とてもユニークな人物(?)だった――(「アフタヌーンティーは庭園で」)。
中身は中年男性、見た目はキュートな、ぶたのぬいぐるみ。おなじみ山崎ぶたぶたが、周囲に温かい気持ちを広げていくファンタジー


祝30作目!な、ぶたぶたシリーズの新作。
今回はイギリス風アフタヌーンティーを軸に、ぶたぶたさんとの出会いが語られる短編集。やっぱりぶたぶたさんは食べ物屋さんが一番だ。安心感が違う。
今回、話として好きなのは「知らないケーキ」。
男やもめで娘2人を育て、義理の両親を見取りと、苦労してきた定年間近の男性にちょっとした幸運が舞い込む話。苦労が報われる話は単純に好きだ。救われた気分になる。それと、ケーキを語るおじさん(ぶたぶたさん)と毎回新鮮に驚くおじさんの図も、なんだか可愛らしくてほっこりする。
また、シリーズ愛好者として驚いたのは「心からの」。
作品ごとで職業が違うし、基本的にぶたぶたさんとの出会いの一コマを切り取った話になるので、家族を除くと長く付き合う人物というのはほぼいない。それがこの話の主人公とは10年もの長い付き合いが語られる。話もぶたぶたさんの思い遣りの深さが感じられる話で、とても良かった。
毎度のことながら、忙しない日常の合間にホッと一息付ける、タイトルのティータイムに相応しい一冊だった。

「処刑少女の生きる道 ―そして、彼女は甦る―」佐藤真登(GA文庫)

この世界には、異世界の日本から『迷い人』がやってくる。だが、過去に迷い人の暴走が原因で世界的な大災害が起きたため、彼らは見つけ次第『処刑人』が殺す必要があった。
そんななか、処刑人のメノウは、迷い人の少女アカリと出会う。躊躇なく冷徹に任務を遂行するメノウ。しかし、確実に殺したはずのアカリは、なぜか平然と復活してしまう。途方にくれたメノウは、不死身のアカリを殺しきる方法を探すため、彼女を騙してともに旅立つのだが……
「メノウちゃーん。行こ! 」
「……はいはい。わかったわよ」
妙に懐いてくるアカリを前に、メノウの心は少しずつ揺らぎはじめる。
――これは、彼女が彼女を殺すための旅。

GA文庫大賞、7年ぶりの大賞作。


過去にいくつも起こされた甚大な人災から、異世界転生してきた者『迷い人』が有無を言わせず処刑される世界。その処刑人を務めるメノウと、殺しても死なない【時】の迷い人アカリの出会いから始まる異世界ファンタジー
インパクトのある冒頭に始まり、好きなものを詰め込んでいる様なのに、破綻しないばかりか的確に中二心を刺激してくる各要素。尖がったキャラクターの個性。すいすい読ませるテンポの良さ。どこをとっても新人離れしていた。
ただそれでも、設定そのものに目新しさはないし(転生者が悪/災害認定されている作品は最近よく見かける)、アクションシーンはそれほど上手いわけでもなく、7年ぶりに大賞を出すほどなのか?と、かなり後半まで思っていた。
その評価は、窮地でアカリの態度が急変し、ある事実を口にしたところで一変する。
これは、、、【回帰】は“いつから”“何度”されている? 各所に散りばめられた思い出話と夢の話は、単なるキャラクター付けではなく、すべて仕掛けだったのか! やられた。
この一巻はまだまだプロローグの段階だった。終盤にきて、この先へと思いを馳せる要素が怒涛のように押し寄せてきて、次回以降が楽しみでしょうがない。


と、ストーリーはとても魅力的なんだけど、ヒロインの趣味に関しては激しく相容れないもの感じる。
モモにしろアカリにしろ、作者は振り回してくるタイプの女の子が好きなんだろう、たぶん。苦手なタイプなのもあって、人の話を聞かないキャラ×2はややストレス。まあ完全に好みの問題だけど。ヤンデレホイホイメノウちゃんの苦労が偲ばれる。

「ひとり飲みの女神様 2杯目」五十嵐雄策(メゾン文庫)

秋本番。お酒大好きOL月子が出かけたのは、東京・青梅の蔵開き。『純米生原酒しぼりたて』に『純米大吟醸』、三百年ものの杉で作った木桶で寝かせた日本酒に、梅酒や竹酒……。ずらりとそろう銘柄を前に“日本酒帝王"月子はどこまで飲み干せるか!? さらに、昔は日本酒が大の苦手だった月子が、一瞬にしてその価値観を変えるきっかけになった幻の“花薫る日本酒"も登場。飲み女子必読の大人気ごほうび晩酌小説、待望の第2巻(おかわり)登場!


毎週金曜にひとり飲みを楽しむ女性・川本月子が主人公だった1巻目と違い、2杯目は月子、1巻で友人になった星菜やその兄鷹介が、それぞれに初見の居酒屋を楽しんだり、また合流してお酒を楽しんだりする話。ひとり飲みの要素は薄れたが、出会いや場の空気を楽しむコンセプトはそのまま。
そんな人も人数もバラバラだった中で、一貫したテーマだったのが日本酒。居酒屋での注文はもちろん、蔵開きに行ったり、イベントに行ったり、禁断の日本酒風呂まで、日本酒で染められた一冊だった。

相変わらず大都市ならではのお酒の楽しみ方が羨ましい。特に東京は安い電車賃でどこでも行けるもの。田舎で飲もうと思ったら誰かが犠牲になるか、飲み代と同じくらいのタクシー/代行代を払うかしかないからね……。
イベント系で楽しそうだったのは蔵開き。利き酒やってみたい。蔵開きを調べて、その時期に合わせて一泊旅行を計画するのもいいな。そんな暇、今年中には到底出来そうにないけど……。
はっ!
1巻にも増して楽しそうだったので、妬みと愚痴が駄々洩れになってしまった。
味を想像させることより、場の雰囲気で酒と料理を美味しく魅せるタイプの飯テロ小説。呑兵衛田舎者にはちょっと毒かも。