いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「居酒屋ぼったくり11」秋川滝美(アルファポリス)

東京下町にひっそりとある、居酒屋「ぼったくり」。
名に似合わずお得なその店には、旨い酒と美味しい料理、そして今時珍しい義理人情がある――。
旨いものと人々のふれあいを描いた短編連作小説、感動の最終巻!


最終巻。
結婚式と新婚旅行、プラスそれに付随する諸々の行事と、一冊丸ごとエピローグな11巻。居酒屋ぼったくりのお店の話としては10巻が実質最終巻だったかな。
久々の長期休みでも忙しなく動いている美音と要を見ていると、案外似たもの夫婦なんじゃないかと思えてきた。それにしても、この新婚旅行はいいなあ。
新婚旅行はきっちり予定を決めていく海外旅行のイメージが強いけど、二人の旅は気ままな国内の車旅行。気になったところふらっと立ち寄ったり、描写はされていないけれど、地元の人とのふれ合いも二人の性格なら楽しみの一つだろう。あと、女子大生を拾ったりねw 半分はお店の仕入れの旅なっているところを含めて、美音さんらしい旅行でほっこりした。
あと、どうしたって印象に残るのが、美音さんの佐島家からの愛され具合。お店と住居がサプライズプレゼントでどんどんグレードアップしていく様子は、大工のショウタの困惑を含めて笑うしかない。
改装後のぼったくりの様子も読んでみたかったけれど、いい区切りで、綺麗な終わり方だったと思う。それに、美音さんがいる限り気のいい常連たちの憩いの場になるは間違いなく、いつもの温かいやり取りが繰り広げられるのが容易に想像できる。

「新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙 IV」支倉凍砂(電撃文庫)

ウィンフィール王国第二位の港湾都市ラウズボーン。ニョッヒラを出て初めての大都市に心躍らせる賢狼の娘ミューリと、教会変革の使命を胸に燃やすコルだったが、二人を待ち受けていたのは、武装した徴税人たちだった。
ハイランドの機転で窮地を脱した二人。どうやら「薄明の枢機卿」と讃えられるコルの活躍が、皮肉にも王国と教会の対立に拍車をかけていることを知る。
このままでは、戦争を避けられない。打つ手無しの中、コルに助け船を出したのは、ロレンスのかつての好敵手、女商人エーブだった。
神をも畏れぬ守銭奴は、果たして敵か味方か。コルは教会、王国、商人の三つ巴の争いに身を投じる――!


デザレフの地を救ったコルたちは島の南、王国第二位の港湾都市ラウズボーンへ。そこで、権力と金と積もった恨みが入り混じった争いに巻き込まれる。
「薄明の枢機卿」――いつの間にかコルの立場が独り歩きして凄いことになっていた。その勇名に臆したわけではないだろうけど、本人は情けないコルに逆戻りしていた。素直で真面目で潔癖なのが彼の魅力なのは分かってはいるが、相手の話を疑っているのにも関わらず信じてしまう人の良さは、そろそろ何とかしないと。ミューリが隣にいなかったら、何度転んでいたことか。
まあ、今回は相手が悪かったのもあるけれど。あのエーブじゃね。
困っているところに出てくるエーブなんて悪魔にしか見えないw でも、コルを手玉に取る手腕を見せながら、僅かで絶妙な詰めの甘さを垣間見せてくれるから憎めない。状況に翻弄されるだけの前半より、エーブが出てきて彼女に翻弄される後半の方が断然面白い。キャラクターが持つパワーは「羊皮紙」より「香辛料」だなと実感してしまった。
と、コルを腐すような感想になってしまっているけれど、話はいつも通り面白い。
「完全な善人もいなければ純粋な悪人もいない」と、人の世の汚い面も捨てたもんじゃない面も見えるストーリーは面白いし、各陣営の思惑と陰謀が渦巻く、三方向か四方向の綱引きのようなバランス感覚は流石の一言。対コルで意気投合しつつあるミューリとハイランドのやり取りも楽しかった。
次こそ大陸へ戻るのかな? ミューリが惚れ直しそうなコルの活躍に期待したい。

「君がいた美しい世界と、君のいない美しい世界のこと」神田夏生(電撃文庫)

高校を卒業したばかりの春休み。最愛の人である三日月緋花里を病で亡くし、失意に沈む僕のもとに一通の手紙が届く。
「世界を『リセット』して、もう一度あたしに会いに来い」
彼女らしい突拍子もない内容を訝しみながらも、僕は一縷の望みを懸け彼女を取り戻す旅に出た。
運命を『リセット』するためには世界で一番美しいものを探し出さなければならないという。
猫のかぶりものをした怪しげな男・クレセントを道連れに、彼女との想い出の場所をめぐる旅路の果て、たどり着いた『リセット』の真実とは――?
ワガママで破天荒な彼女と僕の最高に幸せで甘苦い恋の顛末は、あなたの目で確かめてほしい。


高校卒業直前に最愛の彼女を亡くした少年が、彼女が遺した手紙に書かれた『リセット』という不思議なチカラを求めて、示された住所に向かう――遺した人の想いと遺された人のその後を考える青春ラブストーリー。
ストーリーは『リセット』の条件を探すという名目で、彼女との思い出の場所に出向く彼の旅が軸。思い出は甘く、現実は痛々しくを繰り返しながら、彼女との思い出が語られていく。
彼女の死によって思考停止していた彼が、当時の記憶を思い起こしながら一番大事なことに気付いていく過程が、切なくも優しい良い話。でも、個人的な一押しは彼女のキャラクター。
手紙冒頭の強烈な一言で速攻でやられてしまった。独特の感性を持ち、唯我独尊な俺様気質。なのにその言い分に嫌な気がしないさっぱりした性格で、正義感は人一倍。それでいてデレるとめっちゃ可愛い。
と、全体の九割は楽しんで読んだのだけど、、、
このラストはどうだろう。
ありきたりで拍子抜けしたのもあるが、それ以上にそこまで積み上げられてきた彼女の人物像が突然ブレた気がして大変気に入らない。
帯の文句「感涙必死のラスト5ページ」に期待しすぎたかな。泣く準備は出来ていたのになあ。

「ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか?」新八角(電撃文庫)

荒廃した24世紀の東京は合成食糧や電子ドラッグが巷に溢れ、荒くれ者たちが鎬を削る……それでも、やっぱりお腹は減るんです。日々の戦いに疲れたら、奇蹟の食堂――《伽藍堂》へ!
厨房を受け持つのは「食の博物館」の異名を持ち、天使の微笑みをたたえる少女ウカ。狩人兼給仕を担うのは、無法者に睨みを利かせる、こわもて奔放娘リコ。
二人は今日も未知なる食材求めて、てんやわんやの大騒ぎ。「おいしい!」の笑顔のためならば、人を喰らうドラゴンから、食べたら即死の毒キノコ、はたまた棄てられた戦車まで!? なんでもおいしく、そして仲良くいただきます!
リコとウカの風味絶佳な日常を皆さんどうぞ召し上がれ。


舞台は過去の大戦や行き過ぎた科学技術によって荒廃した24世紀、東京。どんな荒くれ達もそこでは仲良く食事をする奇跡の食堂を営む、料理人ウカと狩人兼給仕リコの騒がしい日常を描く終末SF。
こういうジャンルを「ポストアポカリプス」と言うらしいのだが、そういう枠組みはあまり意味をなさないかも。何故なら、未来ならこういう技術もきっとあるはず、という想像をジャンルを問わず詰め込んだ、何でもありの闇鍋コメディなので。
その何でもありを使って思いっきり遊んでいる感じがとても楽しい。キャラクターの素性も過去の人間の過ちもかなりぶっ飛んでいる。
中でも“ゲテモノ”なのが食材。自立兵器の人工筋肉は食うしわ、恐竜は食うわ、猛毒キノコは食うわ。次は何を食らうのかと、ハラハラとワクワクするのがまさに闇鍋。
話は一話完結型で、破天荒なリコと泰然としたウカの凸凹コンビの掛け合いが話の軸。どんな時代でも、女の子二人が仲良くしているのを読むのは良いものです。そこに、毎回リコに吹っ掛けられる難題を力技で解決していく冒険活劇あり、破天荒な時代設定に驚かされたり、時折現代社会に対する痛烈な毒が混ざっていたりと、楽しみ方色々。それと、どの話も同じ釜の飯を食って仲良くなろうぜ!の精神で爽やかに終わっていくのが気持ちがいい。
シリアスで泣き路線だった作者のこれまでの作風とまるっきり違っていて驚いたが、カラッと笑える面白い作品だった。すでに2巻の予定が決まっているようで楽しみ。

「百錬の覇王と聖約の戦乙女17」鷹山誠一(HJ文庫)

《絹》撃破の喜びもつかの間、《炎》進軍の報せが《鋼》に走る。会戦の舞台は“あの"ガシナ砦。勇斗不在のなか、ラスムス率いる《角》軍が、《炎》の先陣を迎え撃つが――
神算鬼謀の織田信長と、覚醒した勇斗のチート、果たしてどちらが上回るのか!? 異世界の少年が覇道を征くファンタジー戦記、ユグドラシル史上最大の決戦が幕を開ける第17巻!!


決戦間近のこの時期に唐突にルーネが表紙だったので、嫌な予感がしていたが……そういうことか。ホッとしたような拍子抜けしたような複雑な気分。でも敵の強大さといい、今回のあるエピソードといい、本戦になったら誰かが犠牲なることは覚悟しておかないといけないだろう。
さて、今回実際に起こった戦は、前哨戦のさらに前哨戦といったところ。
攻める《炎》は質実剛健で粘り強さを売りにする将クゥガ。迎え撃つのは《角》の大ベテラン・ラスムス。おっさん対決という、地味な戦いの裏で着々と準備を進める両大将、といった構図。
但し準備と言っても、勇斗の方は大脱出の準備だが。大型船を用意して港を制圧しても、民を船に乗せるには港まで移動させなきゃならない。それは解ってはいたが、それを真面目に取り扱うのも意外なら、方法も意外だった。ここが今回の読みどころ。
今回も最終決戦に向けての準備が着々と進み、信長を本気で迎え撃たなければならな時はもうすぐそこ。勇斗の言う信長の弱点とは何なのか、各章で少しずつ匂わせていた不穏な空気や人物がどんな意味を持ってくるのか、次回が楽しみ。