いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ダンジョン・ザ・ステーション」大泉貴(LINE文庫エッジ)

迷宮主を名乗る謎の人物の宣言により、突如新宿駅は、底の見えない巨大迷宮と化した。そこには駅員と呼ばれる危険な怪物も出現。国は迷宮駅攻略のために探索員制度を制定するが、どうにも個性的な強者ばかりが集うように。最強の殺し屋聖女、常に眠い魔法使い幼女、元救世主のステゴロヤクザ、謎多きアイテムコレクター。
そしていま、行方不明になった妹を探す少年が一人、混沌とした物語に足を踏み入れる。迷宮駅の大いなる秘密をその手に携えて。
新宿駅で繰り広げられる果てしなき冒険譚が――ここに始まる。


3年前突如としてダンジョンと化し、資格を得た探索者しか入れない魔境となった新宿駅を舞台にした現代ファンタジー。そこで半年前に行方不明になった妹を探すため、探索者となった兄の冒険を描く物語。

日本の大きな駅がダンジョン化する、しかも内部の構造は主人公が昔書いた小説にそっくりという、作中で自ら陳腐だと言ってしまっているくらい大変ベタな設定。これをどうやって料理するのかと思っていたら、作者紹介欄にある「好きな要素をこの一冊にたっぷり詰め込みました」ってこういうことか。
世界観のごった煮だった。
出てくる出てくる現代ファンタジーの「よくある設定」。あちこちから引っ張ってきそれらを合体させていく様は、次は何が出てくるのかというワクワク感があった。これも一つのオリジナリティの出し方かも。
ただ、残念なのがストーリーも詰め込みだったこと。
続刊前提なら、360ページに無理やり納めないで、260~270ページ×2にしてキャラクターを大事にしてほしかった。話の流れが忙しなくて感情移入している暇がない。
過去作からキャラクターの心情を描くのが上手い(特にままならなさとか葛藤とか)作家さんだと思っていたので、本作はその部分が足りていなかったように思えて、とても残念。

「魔弾の王と聖泉の双紋剣」瀬尾つかさ(ダッシュエックス文庫)

ライトメリッツ公国の戦姫・エレンの下で働く弓使いの青年・ティグルと、エレンの副官・リム。故あって二人はいま、ジスタートに突如攻め入ってきた敵国・アスヴァールの真っ只中で孤立していた。
そこで二人は、アスヴァール王女ギネヴィアから、信じられない話を聞かされる。三百年も昔の人間であるはずのアスヴァール建国者・アルトリウスが蘇り、瞬く間に国を掌握してしまったというのだ。
ギネヴィアに協力することになった二人だったが、その前に、ティグルを上回る弓の力を持ち、そしてティグルのことを「今代の王」と呼ぶ謎の男が立ちはだかり――。
魔弾の王VS魔弾の王。異国の地で、かつてない戦いがティグルとリムに迫る。


リムことエレンの腹心リムアリーシャをヒロインに据え、筆者に瀬尾つかさ先生を迎えた、『魔弾の王と凍漣の雪姫』に続く『魔弾の王』シリーズ第二のifの物語。
舞台は『凍漣』の3,4巻と同じ東の敵国アスヴァール。飛竜に囚われアスヴァールまで連れ去られてきたティグルとリムが、行きついた村に匿われていた王女ギネヴィアと出会うところから物語が始まる。アスヴァールの建国の伝記に出てくる過去の英雄が、何らかの理由で現世に復活し国を盗ろうとしているのを、王家の最後の生き残りギネヴィアを擁立して対抗する。
相手をただの敵国の人間でなく過去の英雄にし、リムにも神器(竜具ではない)を持たせと、本家よりキャラクターメインになった『凍漣』よりさらにキャラクター要素を強くしている印象。
また、戦乱の世の人と人との争いと同時進行で魔物との戦いが入ってくるのが、このシリーズの魅力の一つであるが、本作は人・魔物・死人の三つ巴の構図になっているところが面白い。
今後はアスヴァールの戦いの行く末、死者を復活させている者とその目的は? 他の魔物の動きは?など、ストーリーは当然気になるところだが、戦記ではなくキャラクター小説になっているので、やっぱり見どころはキャラクターか。
ティグルの成長はもちろんだが、エレンやティグルに対するリムの劣等感を濃く扱っているので、ヒロインの成長も楽しみ。それとデレていく過程も。

「魔弾の王と凍漣の雪姫4」川口士(ダッシュエックス文庫)

エリオット王子を利用してアスヴァールの内乱に介入すべく派遣されたティグル、ミラ、ソフィーたちジスタート軍は、暴虐の限りを尽くしていた魔物・トルバランを討ち取り、港町デュリスの解放に成功した。
が、王子の急死という予期せぬ事態の発生により、急遽、ギネヴィア王女を総指揮官とするアスヴァールおよびブリューヌとの連合軍を結成して、ジャーメイン王子と対峙することに。
ジャーメイン王子の勢力圏へ橋頭堡を築くためにマリアヨの港を落とさんとする連合軍だったが、待ち構える敵の船はこちらの倍以上。圧倒的劣勢の中、アスヴァールの覇権を懸けた海戦が始まろうとしていた。


アスヴェール内乱編、決着。
このエピソードは前巻からのはずなのに、3,4巻やっていたような気がする。それだけ中身が濃かったってことか。
今回は、野良の竜が一頭出てくるが対魔物戦は無し。ジャーメイン王子とギネヴィア王女の王座をかけた争い、正真正銘人対人の戦争。
とは言っても、ファンタジー戦記の「戦記」が濃かった前シリーズと違い、本作は戦姫やロラン、ティグルの人を超えた力を使って、戦局を打開していく「ファンタジー」の色が濃い戦争描写だった。中でもロランとティグルによる別働隊での敵本拠地突入作戦、別の世界線では実現出来なかったブリューヌの英雄の共闘が熱い。
戦術メインで戦争を描くとどうしても地味になるので、キャラクターの活躍をメインにするのはラノベとしては正解か。個人的には前者の方が好きだが。
ブコメパートは絶好調。二人でいる時は開き直ってイチャイチャしていてニヤニヤ、ミラが一人の時はあちこちから弄られてニヤニヤ。それに口絵が凄いことになったる。最後の一枚、入れる寸前にしか見えないんですがw
次は、魔弾の王の伝説を探りにミラとザクスタンへ。
二人旅なら国や立場を考えずにイチャコラ出来るが、さすがに立場上無理?


本編に加えて、他作者によるスピンオフと漫画版の監修。川口先生に仕事させ過ぎだろう。本編に影響が出てる。
全く同じ文が二行分丸々ダブっていたり、極々近い文の前後で内容が矛盾していたり、単純なチャックミスが多い。多少の誤字脱字は気にならないけど、これはちょっと(^^;

9月の読書メーター

読んだ本の数 :21
読んだページ数:6703


結構読んでた。



今月のベスト3
「夢に現れる君は、理想と幻想とぼくの過去」園生凪(講談社ラノベ文庫



サバゲにGO! はじめてのサバイバルゲームアサウラ(LINE文庫エッジ)



「Unnamed Memory III 永遠を誓いし果て」古宮九時(電撃の新文芸)



今月は豊作(*´ω`*)
「86―エイティシックス― Ep.7 ―ミスト―」「妹さえいればいい。13」「プロペラオペラ」が次点という嬉しい悩み。

「ファイフステル・サーガ4」師走トオル(富士見ファンタジア文庫)

灰エルフの軍勢を退け、一時の休戦状態へ持ち込んだカレルに、息つく暇もなく《狂嗤の団》切り込み隊長コルネリウスへの婚約話という難題が降りかかる。コルネリウスとともに内乱中のヴィエレヒト司教領を訪れたカレルは婚約者の少女ヘンリエッテと出会う。
「当面は婚約者としてお力をお貸しいただきたいのです」
わずか十一歳という年齢ながら、殺された父の無念を晴らすべく国を統べる大司教になりたいという彼女の力になるため、カレルたちは内乱鎮圧へと動き出すことに……。英雄は少女を王国の救い手として導けるのか!


内乱の様子とコルネリウスへの婚約話の真意を探りに、カレルが宗教国ヴィエレヒト司教領に赴くシリーズ弾4巻。
戦略面ではカレルが頭の回転の速さを披露し、戦闘面ではコルネリウスが反則級の戦闘力を如何なく発揮と、前回は灰エルフの英雄がその強さ(とエロゲ主人公力)を見せつけたが、今回は人間の英雄たちがその能力を発揮する回。
まあ、相手が弱すぎたのもあるが。戦争に疎いのは仕方がないとしても、権力欲ばかりが強くて政治的にも無能揃いだったヴィエレヒト司教領の司教たち。これでよく国が回っていたなと。そのトップである大司教がこれでもかと下種に描かれていたので、爽快感は最高。
キャラクター小説としてはコルネリウスがメイン。彼が子供には優しい理由が明かされるので、仮の婚約者ヘンリエッタ(11歳)との不器用なやり取りが微笑ましく映る。また、異常に強い理由が「呪い」だと明かされたのが興味深い。誰のどんな呪いなのか。
まだまだ一枚岩にはなりそうにはないが、一応人間側が団結する用意は出来て、巫女という切り札も得て、さらにもう一勢力味方に?というところで次回へ。
ミーリエルの爆弾発言で続いたが、一番の関心事はセシリアの体調不良。悪いことの予兆なのか、妊娠フラグなのか。ヴェッセルの秘密を看破したカレルの行動と、灰エルフの動きも気になるところ。
でもそれより何より、続きが出るのか。ファンタジアには何でこれが10巻以上も続いてるの?って作品が結構あるのに、この作品が続行危機なのが信じられない。