いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙 X」支倉凍砂(電撃文庫)

新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙X (電撃文庫)

エシュタットを騒がせた“薄明の枢機卿”を騙る偽者を成敗し、身に余るふたつ名を背負う覚悟を決めたコル。傍らに並び立つ、人呼んで太陽の聖女・ミューリもどこか誇らしげな様子。
公会議に向けた準備も大詰めのところ、二人の下にエーブの部下で羊の化身・イレニアが投獄されたとの報せが届く。
しかも投獄先は山岳都市ウーバン、七人の選帝侯のうちの一人、傭兵王を名乗るデュラン選帝侯が治める要害の地。
姉と慕う彼女の窮地を救わんと鼻息荒いミューリは、早速イレニアを助けに行こうと計画を練るが、どうやらイレニアは選帝侯お抱えの天文学者を誘拐した罪に問われていて――。


ニセモノ騒動を機に表舞台に立つ覚悟が出来たコルとミューリは、公会議に向け仲間を増やすために傭兵王が治める地へ。
羊のイレニアに鳥のシャロン、鼠のヴァダンが活躍する獣率の高い回。そうすると必然的に出てくるのが人ならざる者の新天地の話と「月を狩る熊」の伝説。そういえばそんな話あったなーくらい認識だったものが、まさかここまで本筋に絡んでくるとは。
「月を狩る熊」は天文学的な話だったのか。人ならざる者たちの中での話だったので、もっと神話的なものだと思い込んでいた。言われてみれば納得で説得力がある。
そんなわけで、今回の話の中心は天文学。理科的な話ということで同世界観の『マグダラで眠れ』の雰囲気もありつつ、スケールの大きいロマンとワクワク感を強く感じる物語だった。表紙の背景もあってる。
その一方で、毎度驚きと関心を与えてくれる窮地からの逆転の一手が魅力の、狼と香辛料シリーズにしては珍しくオチに説得力がない。
コルの説得が、虎の威を借る狐ならぬ狼の威を借る子羊になってるのだが、教会の不正を正す“薄明の枢機卿”として異端の力の協力が得られることを見せるのどうなの?というのがまず疑問。単純のラノベの主人公としてカッコ悪いというのもある。
また、大昔の道の復活が逆転の決め手になっているのだが、随分昔に地形が変わってしまっているのに、どうやって道を元に戻すのかの方法論が一切論じられていない。○○を見つけたところで退かす方法がないじゃない。これで相手が納得するのは大いに疑問。
でも、このシリーズには珍しく完全解決というよりは次回に続くなニュアンスが強いので、こちらは次回何らかの答えが用意されているかもしれない。
ただ、次回は初の別行動になりそうで。。。心配だ。コルの身もそうだが、今回の天文学娘みたいな現〇妻的サブヒロインが増えないかが心配。ある一点ではミューリはホロより苦労してるわ(^^;

「私の心はおじさんである2」嶋野夕陽(PASH!ブックス)

私の心はおじさんである 2 (PASH!ブックス)

謎の赤子「ユーリ」を救出し【神聖国レジオン】に辿り着いたハルカ達。ダークエルフを破壊の神の使徒と思い込む学生達に絡まれてしまう。子供相手の模擬戦でハラハラしていたハルカだったが、なぜかしもべ(?)ができることに!
さらに、面倒な貴族のお坊ちゃんから依頼を受け、新たな街を目指す一行の目的地は世界中の強者がひしめく武闘祭!曲者揃いの大会で、ひとり闘いに挑むアルベルトは勝ち残れるのか!?
人間関係を諦めたおじさんが、新しい自分として異世界で心を成長させていく、歪だけど王道な冒険の物語第2弾!!


四十路で独身の冴えないおじさんが、ダークエルフとして異世界に転生する物語、第二巻。
一巻から間が空いたのでもう出ないのかと。無事に出て良かった。
ストーリーは護衛任務途中に寄った壊滅した村で赤子を保護した後。神聖国レジオン到着から隣のドットハルト公国での武闘祭の予選まで。おじさんが多くの出会いと別れを経験する旅のお話。
主人公のハルカは異世界転生ものらしく、外見は超絶美人で戦闘能力は極めて高いダークエルフなのだけど、読んでいるとそのことを頻繁に忘れる。なにせ中身が自己肯定感が薄い善良な小市民という実に日本人らしいメンタルの持ち主なので。
そんな彼(彼女?)が旅で出会いと別れ、平和な国ではありえない経験を繰り返しながら、仲間たちのこと、冒険者という職業、人の命のこと、一つ一つに悩んで飲み込んで考えて答えを出していく。その過程が丁寧に描かれるので、同じ小市民として共感できる場面が多い。
その悩み多き美女(おじさん)を引っ張ってくれる仲間たちが気のいい若者たちなのがまた良い。
実直な少年アルが叱咤し、元気少女のコリンが宥め、敏い少年モンタナが寄り添う。でもある時は逆にハルカが中身は年長者らしい気遣いを見せて若者たちの手助けをしたり。お互い助け合うというより、誰かが困っていたら助けるのが当たり前、四人でいるのがごく自然な空気が出ている。そんな気持ちのいい気の合う仲間たちとの旅が本当に楽しそう。
所謂なろう系は日頃の鬱憤を晴らす自己顕示欲の塊みたいな物語ばかりの中、外側のチートスペックを楽しい旅の煩わしい障害を取り除くためだけに贅沢に使って、純粋に旅と第二の人生を楽しんでいる感じがとても心地いい。
2巻も面白かった。次は師匠との出会いがメインかな? 

「魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?18」手島史詞(HJ文庫)

魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい? 18 (HJ文庫 て 02-01-18)

迫りくる数々の危機や問題に対抗すべく行動を起こすザガン。そこに突如現れたのは、ザガンの旧知の仲にして敵の首魁でもある、マルコシアスその人だった。
「現〈魔王〉を招集する。お前にも、そこに来てほしい」
果ての地で開かれる、現〈魔王〉が勢揃いする集会。出向くことを決意したザガンは、せっかくの機会だからと仲間たちと共に道中で観光三昧!? 更にはバルバロスがザガンとネフィのために何やら企んでいるようで――。大人気ファンタジーブコメ第18巻!


表紙とラストがエンダーーーーーーーーーーーーーな18巻。
ストーリーとしてはザガンとマルコシアスによるまだフリーの魔王や魔王候補の引き入れ合戦と、現魔王が一堂に会する〈魔王〉会議開催のお知らせ。と、いったところだが、もう誰もそんなところ気にしてないよね←おい
誰も彼もがあっちでイチャイチャ、こっちでイチャイチャの通常営業。今回はずっと城にいたゴメリ婆さんが狂喜乱舞。本人は大して動いていないのに、それはもう目立っておられましたよ。
ホントあの婆さんどうなってんだ? 敵の総大将も出し抜く盗聴力にタジタジにする胆力。同志のマニュエラまで魔王より(押しが)強くなってるし、やっぱり作中最強だろう。もうさ、魔王の勧誘合戦がラブコメ渦に堕ちるか殺されるかの二択ってなんだよ。極端とかいうそういうレベルじゃない。ダメだこの世界。ゴメリ婆様に毒され過ぎたんた。。。
そんな精神的ゴメリ無双が繰り広げられている裏で画策されていたのが、前々巻ザガンの策略(裏切り?)によって熱愛が大々的に報じられた、バルバロスとシャスティルによるザガンとネフィへの仕返し大作戦。
というわけで、久々にメイン二人のイチャイチャ来た!待ってた。最近二人して影が薄かったから、そんなに長くはなかったけどその分濃いイチャイチャを読めてよかった。横槍を入れた新顔魔王もネフィのヤキモチを引き出すいい仕事をしてくれた。そういや指輪なんてあったね。作ってもらったのいつだっけ?もう覚えてないや(^^; 何はともあれその指輪もここぞの場面でいい仕事をしてくれた。満足。
次回は〈魔王〉会議……はどうでも良くて、興味は結婚式を完遂できるか。これに尽きる。

「VR浮遊館の謎 ―探偵AIのリアル・ディープラーニング―」早坂吝(新潮文庫nex)

VR浮遊館の謎:探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫 は 72-4)

人工知能探偵・相以(あい)と助手の輔(たすく)は、世界初のフルダイブ型VRに挑戦! あらゆるものが浮遊する館で、相以は魔法使いに変身! 早速、犯人当てゲームの最速クリア法を提案する。「一人ずつ殺していけばいいと思います!」ゲームとは思えない生々しい死体の出現、迫りくる殺人鬼の魔の手。はたして二人は浮遊館の謎を解き、無事に脱出できるのか。急転直下の推理バトル、新感覚ミステリ。


人も物も浮遊する館を体験できるVRゲームで犯人を見つけ出す推理勝負。フルダイブVR空間で身体を得た相似が大暴れな探偵AIシリーズ第四弾。
シリーズ開始当初に比べ進化が著しいAI業界。SFなのに現実に追い抜かれはしないかと、シリーズ存続大丈夫か?なんて思いながら読み始めたが、杞憂だった。
今回もぶっ飛んだトリックと結末で度肝を抜かれた。AIの進歩どうこうは全く気にならなくなる衝撃← このシリーズ、第三弾「四元館の殺人」からSFトンデモトリックメインにシフトチェンジした感がある。
ミステリとしては、仕掛け人の似相が「ヒントはいっぱい散りばめたからフェアでしょ」と言わんばかりだったけど、この世界がどれほど技術が進んでいるかを判断する材料がないから何とも、と言ったところ。いやまあ、今でも成功率とお金と秘密裏に実行可能かどうかに目を瞑れば、不可能ではないのかもしれないけど。
でもいいのだ。スケールの大きいぶっ飛んだトリックとどんでん返しがエンタメとして最高に面白いから。細かいことは気にしない。
ちなみに心配していたAIの進歩は、
時々有能で時々ポンコツな探偵AI相似と犯人AI似相。判別可能範囲内なら有益な答えを素早く出すけど、それ以外は頓珍漢な答えを返す現代のAI。似ていると言えば似ている。現代が作中に追いついてきた……のか? 但し、愛嬌に関しては遠く及ばないが。身体を得た相似が輔を抱きしめるシーンの尊さとか。ツンデレ気配の似相の可愛さとか。
ミステリと言われる「お、おう」ってなるけれど、キャラクターSF小説として、SFエンタメ小説として面白かった。

「ビブリア古書堂の事件手帖 IV ~扉子たちと継がれる道~」三上延(メディアワークス文庫)

ビブリア古書堂の事件手帖IV ~扉子たちと継がれる道~ (メディアワークス文庫)

三つの時代をまたぎ紐解く、鎌倉文庫の謎
まだ梅雨の始まらない五月の終わりの鎌倉駅。よく似た顔立ちだが世代の異なる三人の女性が一堂に会した。
戦中、鎌倉の文士達が立ち上げた貸本屋鎌倉文庫」。千冊あったといわれる貸出本も発見されたのはわずか数冊。では残りはどこへ――夏目漱石の初版本も含まれているというその行方を捜す依頼は、昭和から始まり、平成、令和のビブリア古書堂の娘たちに受け継がれていく。
十七歳の「本の虫」三者三様の古書に纏わる物語と、時を超えて紐解かれる人の想い。


昭和=智恵子、平成=栞子、令和=扉子の祖母・母・子が高校生の時に関わった本に纏わる事件を綴る、ビブリア古書堂三世代の物語。戦中の貸本屋鎌倉文庫」の貸出本の行方と漱石が時代を繋ぐ。
率直な感想を言うと三人ともみんなどこか怖かった(苦笑)
扉子は目的を定めたら他が見えなくなる危うさが読んでいて怖いし、智恵子が出てくると相変わらず話がサスペンスになるし、栞子は少女時代からテンションの乱高下と洞察力の鋭さが恐ろしいし。
でも、鎌倉の文士達が蔵書を持ち寄った貸本屋の行方不明になった本の行方。そこまで古書に興味がない自分でもワクワクしてしまうロマン溢れる謎に、本の虫が携わったらテンションが振り切れて前のめりになるのは必然か。だからこそ面白かったのだけど。
それに同じ十七歳の祖母・母・子の物語を並べることで、三人がとてもよく似ていて、でも少しずつ違う個性が見えてくるところも面白い。その違いを漱石の作品の感想で表現するのが、実にこのシリーズらしくて良い。
また、昭和と平成の話が智恵子の夫で栞子の父の登の“事件手帖”だったのも見逃せない。
登と大輔、代が変わっても同じことをしているのは女性だけではなかった事。本の虫の夫となった男性に共通点が見えたことで、運命めいたものを感じてなんだか嬉しくなった。令和の語り部だった扉子の後輩恭一郎も日記を付けることになるのか、それとももう付けているのだろうか。
久々だったかが変わらぬ面白さだった。世代を超えた長期シリーズだからこそできる過去の話の切り口が楽しかった。