いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「双神のエルヴィナ2」水沢夢(GA文庫)

天界の侵略から人間を守るべく設立された会社「デュアルライブス」。その社長に就任した小学生・創条照魔は、女神・エルヴィナを相棒に、戦いの日々を送っていた。だが、世界の平和のためとはいえ、幼い頃から憧れてきた女神たちとの戦いは、照魔の精神に大きな負担をかけていた。そこでエルヴィナは、彼の心身を癒すためある作戦に出る。そんな時、天界最高峰である六枚翼の女神が人間界に降臨。彼女の名はシェアメルト――自称、天界でもっとも恋に詳しい“恋愛博士”。次の女神は、さらにヤバい! 新時代の女神バトル第二弾!!


女神バカの少年が天界から追放された最強の女神と共に、人間界に侵略してくる女神に対抗する女神バトルアクション第二弾。
1巻から「女神ヤバい」を強烈に印象付けていったこのシリーズ、2巻ももちろん「女神ヤバい」だった。
その筆頭が表紙の美人さん、シェアメルト。
出会うと勝手に友達認定してきて、その友達には粘着ストーキングしてくるやべー奴。おまけに人間界全体に影響があるカップルを喧嘩別れさせる【神略】を使い、戦闘では物だけでなく距離も関係性も溶かす能力を使う。はためいわくぅ!
そんな相手でも熱いバトルにしてしまうのが恐ろしい。
戦う前から絶不調で強敵に翻弄されるエルヴィナと照魔が、一つ二つと奮起するきっかけを得て大逆転する展開は否が応でも盛り上がる。途中の発言内容がおかしいのも気にならなくなる勢いと熱量だ。(発言内容はいつもおかしいから慣れただけとも言う)
ただ、バトル以外のところが今回は微妙か。
伏線張り用のエピローグでベタ惚れなエルヴィナの内心を読めたところは良かったのだけど、そこまでの日常パートはエルヴィナと照魔の絡みが少なくて薄味。あっちでもこっちでも律儀にツッコミを入れている元ヤンメイド詩亜の空回りっぷりが泣ける。
次からは女神との戦いが激しさを増すのは確実でバトルシーンの熱さは約束されたようなものだけど、日常パートでのエルヴィナのデレにも期待したいところ。

「プロペラオペラ5」犬村小六(GA文庫)

極東の島国・日之雄。その皇家第一王女・イザヤ。幼なじみのクロトは10才の時にイザヤにとんでもない“狼藉”をはたらき皇籍剥奪された曰く付き。しかしふたりは今、第八空雷艦隊司令官と、彼女の超キレ者首席参謀! ガメリア大統領となったカイルは、史上最も巨大凶悪な飛行戦艦「ベヒモス」を建造し日之雄に迫る。奴の戦争の目的は、イザヤを娶ること。バカか!! そんなこと許せるわけがないクロトは、カイルの仕掛けた「三角関係大戦争」の直接決戦を断固受けて立つ! 作者・犬村小六は、今巻に、自身の生きる力の全てを叩き込んだ!


日之雄の存続が掛かっているのに惨敗必至、絶望の決戦に挑む最終巻。表紙の笑顔に至るまでの物語。
味方の駆逐艦は残り八隻。敵戦力は数十倍で性能も上。すでに東京は火の海。そしてカイルからの求婚という名の最後通告まで来て、まさに絶望という言葉がピッタリの状況。
そこまで追い込まれた状態から、国の行く末も、上の命令も、正しい思想や倫理も関係なく、男の子が女の子の為に意地を張って我が儘を貫き通す戦いが繰り広げられるのだから、盛り上がらないはずがない。綱渡りの作戦に手に汗握り、クロトの味方への想いに涙し、クロトの活躍に心で喝采を送る。
当然、最も活躍したのは主人公のクロトだが、仲間たちの最期にもグッと来た。
「俺に構わず先に行け」「俺の屍を越えてゆけ」。今やネタにされるようなシチュエーションを、文字通り決死の覚悟の場面で本気でやるとこんなに格好良くて感動するんだなと。
中でも鬼束兵曹長。これまで五月蠅いベテランくらいのイメージしかなかったのに、クロトを焚きつけた言葉といい背中で語る姿勢といい、格好いいとしか言いようがない。鬼束さんは自分の中ではクロトも速夫も超える最強のヒーローに登りつめた。あんたこそ男の中の男だ。
一方、男を落としていったのがカイル。求婚後はピエロにもなれず、ラスボス感ゼロであっさり退場していったのが意外で不満。カイルが強者として立ちはだかっていたら、決戦もエピローグももっと盛り上がっただろうに。敵将キリング提督の方がまだ悪役感があった。
エピローグは、太平洋戦争をモチーフにした作品なので、もちろん敗戦で人死にも沢山なのだけど、その中では最大限のハッピーエンドでニヤニヤ度も高い。まあ、そもそもイザヤを笑顔にするための物語だしね。気兼ねなくデレるイザヤの可愛さといったら。クロトさんズルいわー。あんな最低なプロポーズしておいて、このイザヤを独り占めとかズルいわー。もう一組は素直に祝福できるのに。それにしても速夫がここまで出世するとは。
『とある飛行士』の犬村先生らしい空のロマン溢れる愛の物語だった。コメディパートのはっちゃけ具合と、それぞれの戦う動機、帯にもなった鬼束の台詞に「自分の為に、大切な誰かの為にバカになれ」というメッセージを受け取った。

「異世界転移、地雷付き。3」いつきみずほ(ドラゴンノベルス)

ついに家を建てます! 痛快・のんびり異世界開拓ライフ、第3弾!
ついにラファンの街に家を持つことにしたトーヤたち。とはいえ今日も金策に奔走していた。そんな中、ギルドで割のいい薬草採取の依頼を受けることに。併せて、これまた高額な対価がもらえる売れるマジックキノコ採取や、グレートサラマンダー捕獲も目指す。しかし、もちろんそんなに都合よくいくはずもなく……。開拓ライフをのんびり過ごす夢の実現は、まだ当分先のようで……。


オークで金策始めましたな3巻。
【悲報】オーク、弱い。
戦闘に盛り上がりを求めるシリーズではないし、強敵との戦いは避けるのがハルカたちらしさなので弱いことは別にいいのだけど、仕事も生活も工夫して異世界を生きている彼らの、その工夫が見られるくらいの強さは欲しかったというのが本音。
まあ、3巻のメインコンテンツはマジックバックだからいいか。
分業制で補い合うの彼らのパーティーらしい一品。特にハルカとナオの幼馴染み共同作業ってのいい。基本ナオ視点で進む物語なので、ハルカの気持ちは解らないけれど、内心うっきうきでやってるんだろうと想像するとニヤニヤ度が高い。
あとは、ある意味専属鍛冶職人となるクラスメイト・トミーのサイドストーリー。
挿絵がショタドワーフを騙そうとする詐欺師獣人の図にしか見えない件。これから幾度となく無理難題を吹っ掛けられることを考えると、あながち間違いでもないのが怖いw
書き下ろしサイドストーリーは普通の冒険者になったクラスメイトの話。
初手で異世界もの定番の金稼ぎ術をことごとく潰してくる辺りがこの作品らしくて好き。
女の子とお近づきになりたいのに、運を人の良いオジサンたちと安全に全振りしてしまった彼に果たして出会いはあるのか。

「異世界転移、地雷付き。2」いつきみずほ(ドラゴンノベルス)

異世界に送られたナオ、トーヤ、ハルカの幼馴染3人衆は、探索中に離ればなれとなったクラスメイトたちに遭遇する。友たちとの久々の再会。嬉しさもつかの間、いろいろ問題がありそうで……。魔導書探しに武器選び、猪狩りに物件見学。果ては、経営難に悩む美人エルフの喫茶店経営の立て直しも、いつの間にか請け負うことになり? ほのぼの開拓スローライフ、ますます順調? 待望の第2弾!


転移から2ヵ月ほど、未だ猪とゴブリンしか倒したことがない堅実異世界冒険譚第2巻。

トミーが可愛すぎるだろ!
ショタが無理矢理付け髭付けさせられてるみたいだ。もっとむさいおっさん容姿のはずでは?
仲間二人の合流がメインイベントで、現地産合法ロリエルフのアエラさんも出て来る巻なのに、あまりの衝撃に変なところから反応してしまった。
それはともかく、ナツキとユキが合流して仲良し五人パーティーが完成。
この五人の気安い雰囲気や弄ってもやり過ぎない加減とか、気心の知れた会話が本当に楽しくて好きなんだ。五人いても、生活でも戦闘でも会話でも役割分担がしっかりしていて、それぞれにキャラが立っているのも良いところ。
ヒロインが増えても一番はやっぱりハルカ様だけど、ナツキも結構好みのタイプのヒロイン。柔らかな物腰と毒舌のギャップが素敵。ユキは、、、可愛いんじゃないかな、弄られマスコットとして。
この巻で面白かったのは書き下ろしサイドストーリーのディオラさん(副支部長兼ギルド受付嬢)
高級とはいえドライフルーツの為にここまでするのか。やり手だとは思ってたけど、想像以上に怖いお姉さんだった。結婚できないのは、こういう面が見え隠れしてるからじゃないですかね?

「みとりねこ」有川ひろ(講談社)

稀代のストーリーテラーが綴る7編、7匹の物語。
時間は有限。出逢いは無限。『旅猫リポート』外伝2編も収録!

猫の浩太は、一家の長男・浩美と生まれたときからずっと一緒。もう二十歳を超えるけど、年齢を感じさせないピカピカの毛並みがご自慢。いつも醤油にひたした肉球で、テーブルクロスにハンコをペタペタ。さて、念入りな肉球ハンコのわけは――?
きっとあなたの宝物になる。猫とあなたの7つの物語。


猫と人を描いた七編の短編集。1,2話目が『旅猫レポート』の外伝、3話目が『アンマーとぼくら』の外伝と有川ファン必読の一冊となっている。
というわけで初っ端からあの『旅猫レポート』の外伝、全力で泣かせにくる。
2話目は本編に出てこなかった旅の一つといったところだが、1話目の『ハチジカン』がきつい。主人公サトルの小さい時の話で、三つの死別が語られる。中でも初めての飼い猫ハチの最期は涙でボロボロに。それでなくてもとても幸運とは言い難いサトルの人生なのに、こんなところまで別れを用意しなくてもと思わずにはいられない。
そんな『旅猫レポート』外伝以外の話も、みとりねこ=看取り猫のタイトル通り、人と猫の死に別れを書いた短編が多く、随所に涙腺を刺激してくる。
一時期、主にライト文芸界隈で所謂「難病もの」が氾濫して(今もその名残があるが)、「ほら泣けよ」って言われているみたいなそのわざとらしさが嫌になって、その手の作品を一切買わなくなったのだけど、有川先生の作品はそういうわざとらしさを感じさせずに、自然に泣かせてくれるのが良い。
と言いつつ、7話中最も好きなのは生の気配と未来の希望に溢れた『シュレーディンガーの猫』だったりするのだけど。
子供が出来た漫画家と編集者の夫婦の話で、漫画以外はからっきしでダメな父親まっしぐらな旦那と、どこぞの軍曹みたいに男気溢れた奥さんの掛け合いが、コントか漫才かというテンポの良さと面白さ。旦那が拾ってきてしまった捨て猫のおかげで、旦那に父としての自覚が生まれ、ドタバタしながらも状況が好転していく痛快さ。ほっこり温かくなる一話だった。
有川ファンとしても猫好きとしても嬉しい一冊だった。