いつも月夜に本と酒

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「異人館画廊 盗まれた絵と謎を読む少女」谷瑞恵(コバルト文庫)

異人館画廊 盗まれた絵と謎を読む少女  (コバルト文庫)
異人館画廊 盗まれた絵と謎を読む少女  (コバルト文庫)

独自の意味を背景や小物として絵画に書き込む手法、図像。英国で図像学を学んだ千景は、祖父の死を機に日本に戻ってきた。祖母が経営する画廊には一風変わった仲間たちが集っており人付き合いの苦手な千景は戸惑うばかり。そこで千景はある盗難絵画の鑑定を依頼されるが、仲介者が昔から気の合わない幼馴染みの透磨だと知って…!?
呪いの絵画をめぐる美術ミステリ!!文庫書き下ろし。


図像学なんて学問があるのか。初めて知った。
フィクションかと思っていたら図像学の説明が随分と細かいので、もしやと思って読んでいる途中にググってしまった。


見ると人の神経に作用する二枚の絵画(映像で言うところのサブリミナル効果に近い感じか)にまつわる美術ミステリ。奇作収集集団vs悪徳バイヤーの対決の構図で、どちらも結構あくどい手を使うので、ミステリというよりはハラハラすることが多い冒険活劇といった体。
但し、メインはテーマが親子関係の人間ドラマ。親に愛されなった主人公・千景と事件の顛末から切なく、でも最後は少し優しい谷瑞恵作品らしい物語が展開される。中でも聡明さと年頃の少女以上の不安定さをもつ千景と、優しい捻くれものの透磨のやり取りは、シーンによっていくつもの顔を見せてくれるので面白い。
さて、この作品で最も目を引く千景が専攻する図像学という珍しい学問。説明は分かりやすくて良かったのだが、結局のところ話が絵の奪い合いになっているで、図像学が生かされているかというと微妙なところ。亡くなった祖父との図像を使った暗号遊びの思い出が何度も語られるのに、暗号での謎解きもないしねえ。
色々とちぐはぐな感じはしたが、図像学の説明には大いに興味をそそられたし、最後は作者ならではの作風が感じられたので割と満足。