いつも月夜に本と酒

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「あやかし飴屋の神隠し」紅玉いづき(メディアワークス文庫)

あやかし飴屋の神隠し (メディアワークス文庫)
あやかし飴屋の神隠し (メディアワークス文庫)

皮肉屋の青年・叶義は幼い頃、あやかしの神隠しに遭って以来、いかなるものも“視えないものはない”という。妖しい美貌を持つ飴細工師・牡丹はその手で“つくれないものはない”という──。
二人の青年が営むは、世にも不思議な妖怪飴屋。奇妙な縁に惹かれた彼らは、祭り囃子の響く神社で今宵も妖怪飴をつくりだす。人と寄り添うあやかしの、形なき姿を象るために。あやしうつくし、あやかし飴屋の神隠し。


紅玉いづきさんの新作は妖怪もの。
といっても、同じメディアワークス文庫の『絶対城先輩の妖怪学講座』のように妖怪を中心に据えたものではなく、あくまでも人間の物語で、雰囲気作りと不安要素や過去の過ちのなどの負の要素を具現化や強調するためのファクターとして妖怪が使われている感じ。
登場人物の心理描写にあまり直接的な言葉は使わないのに、読者の感情を直接揺さぶってくる独特の表現力は流石の一言。
ただ、後半になるにつれて何故だか違和感が……と思ったらあとがきで判明。そうか男性主人公は初なんだ。
飴屋を切り盛りする青年・叶義の物語なのだが、全四話の内、前二つは女性視点。こちらでは作者の表現力がいかんなく発揮されている。
それに、第一話の女性の最後に出した結論が男の自分の考えとはちょっとずれているものだったり、第二話の女の子の価値観も自分にはないものだったり、そういうのを読むのが新鮮で面白い。
それに比べて男性視点になると、なんとなくだけど結論がぼやけているというか、踏み込みが一歩足りない様な気がする。
それでも、悲しくなるぐらい優しい叶義の人柄と、妖怪が作り出す薄暗く物悲しい雰囲気がマッチしていて、ジーンとくる良い作品だった。