いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ご恩、お売りします。 恩屋のつれづれ商売日誌」朝倉景太郎(富士見L文庫)

ご恩、お売りします。 恩屋のつれづれ商売日誌 (富士見L文庫)
ご恩、お売りします。 恩屋のつれづれ商売日誌 (富士見L文庫)

都市伝説としてひそやかに語られる「恩屋」さん。彼に頼めば、どんな願いも無償で叶えてくれるという。
恩屋が請求するのは、その恩を忘れないこと。ただそれだけ。
仕事に悩むTVディレクター、彼氏が欲しい女子大生、家族を救いたい女の子など、今日もさまざまな悩みを抱えた人が、彼を頼りに扉をたたく……。
「畏まりました。恩屋幸太郎、あなたに恩を売らせていただきます」
都心の雑居ビルに住まう和装の魔法使いが、訪れる人の心を解きほぐす。


会ってから丁度一週間でその人の記憶から消えてしまう青年・恩屋幸太郎(一週間フレンズの逆と考えると分かりやすい?)が営む、一風変わったなんでも屋「恩屋」の物語。各話が少しずつ重なり合っていく短編連作形式。
初めの話がオカルト・ホラー系だったので、そういう路線なのかと思いきや、その後は探偵冒険活劇風になったり、思いっきり切ない話になったり。依頼内容や依頼者の感じ方よって雰囲気がガラッと変わるので、一冊で色々な話を楽しめる。
どの作風の話も安定していて読みやすい点と、忘れ去られてしまう恩屋の悲しみを話毎に濃くしていって、最終話のラストに繋げていく流れが綺麗で、新人とは思えない力量を感じる。
ただ、設定の曖昧さが引っかかる。話を広げるのには必要なのだろうが個人的にはマイナス点。
相手が恩屋のどこまでを忘れるのかが不明瞭で、誤魔化されている感じがしてモヤモヤするところがある。最終話のラストは泣けるシーンだったはずなのに、二人の反応が矛盾しているような気がして釈然としないまま終わったので、微妙に読後感がよろしくない。そこまでの流れが美しかった分余計に。
それでも、どんな作風でもいけそうで今後楽しみな作家さん。



ペンネームはともかく、タイトルは応募時の方が力強くて良いと思う。最近、この手のタイトルが増えすぎで没個性になってしまっている。