いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「マグダラで眠れ VII」支倉凍砂(電撃文庫)

マグダラで眠れ (7) (電撃文庫)
マグダラで眠れ (7) (電撃文庫)

錬金術師たちの次なる目的地は、太陽の召喚により一夜で滅んだというアッバスの町。クースラは、長く旅を続けていく中で巡り合った旅の同伴者たちに、居心地の良さを感じていた。その気持ちを振り払うかのように、天使が残した『太陽の欠片』の調査を始めるクースラの前に、書籍商を名乗る男フィルが現れる。フィルもまた異端審問官アブレアが残した伝説の足跡を追っており、アッバスの町に古くから伝わる『白い悪魔の生贄の儀式』こそがその手がかりではないかと語る。儀式が行われる祭壇を調査するうちに、伝説の真相に近づいていくクースラたち。だがその時、思いもよらない事態が彼らを待ち受けて――?


嗚呼、美少女の前ではドギマギしてまともに喋れないようなピュアな少年だったフィル君が、こんなに商人らしい小太りのおっさんになっちゃって。時の流れとは無情であるなあ……。




そんなわけで、スピンオフ作品の主人公も登場するシリーズ7巻。
……え? なにこの空気。
これまでも割とイチャイチャしていた二人ではあったけども、今回のそれは恋人たちのと言うよりも、イリーネとウェランドも含めた「一家団欒」といった満ち足りた空気が流れている。フェネシスにすっかり牙を抜かれたクースラが、安らぎを感じることに躊躇いがなくなった結果かな。良き哉良き哉。
まあ、クースラが充実感を感じたのには、もう一つ今回の仕事が黒色火薬に硫酸にと、これぞ錬金術師の面目躍如と言わんばかり“化学実験”だったこともあるが。
とにかく言動の端々に幸せオーラいっぱいで、読んでいるこちらまで幸せ気分に浸らせてもらった。
但し、彼らはそれに浸りすぎたおかげでしょっぱい罠に引っ掛かって窮地に立たされるわけだけど。
でも、ここでも心のどこかに余裕があるからなのか、成功失敗が生死を分ける文字通り必死の作業と作戦なのに、錬金術師のクースラやウェランドはもちろん、書籍商のフィルまでもどこかイタズラ小僧みたいで、絶体絶命のピンチなのにワクワクしてしまう。
前半は幸せを後半は高揚感を味わえて、ラストの甘さも申し分なし。シリーズ史上一、二を争う面白い巻だった。