いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「古書街キネマの案内人 おもいで映画の謎、解き明かします」大泉貴(宝島社文庫)

古書街キネマの案内人 おもいで映画の謎、解き明かします (宝島社文庫)
古書街キネマの案内人 おもいで映画の謎、解き明かします (宝島社文庫)

東京・神田神保町。世界最大級の書店街であるこの街の裏路地には、小さな名画座『神保町オデヲン』がある。大学生の多比良龍司は、そこで出会った女性・六浦すばるに惹かれてバイトを始めることにした。彼女は映画にまつわる悩みを聞いて解決する“案内人”なのだった。映画の感動と興奮、その“おもいで”が人と人を繋いでいく。これは小さな名画座で巻き起こる、どこか温かく懐かしい物語。

日常ミステリ風作品の映画版。
映画館が神保町にあるだけで古書は出てこないが、古書街のイメージをそのままに趣きある映画館の雰囲気を大事にした非常に落ち着いた話ではある。
また、映画にしてもキャラクターにしても取っ付きやすさが特長。
『E.T』や「黒澤明」など誰でも聞いたことはある作品や監督から入っていって徐々にコアな話になっていく話の作り方や、映画は無知でも頭は悪くない主人公が聞き役として優秀なので、映画初心者でも物語にスッと入っていけてとても読みやすい。
ただ、自分としては物足りなかった。特に何が悪いというわけでないけれど、全体的に薄味な印象が否めない。
もっと濃く深く映画薀蓄を語らせるとか、扱う映画を思いっきりマニアックにするとか、何か濃い部分が欲しかった。その所為か「この映画を見てみたい!」と思わせるまでには個々の作品の魅力は出ていなかったように思う。まあ、自分があまり映画に興味がないというのもあるだろうけど。
もしくは、すばるをもっと押し出したキャラクター小説でもありだったかも。美人だけど愛想は微妙、でも付き合ってみると愛嬌がある、語り出したら止まらない年上の女性。オタク男子垂涎のヒロインかと。
作者の作品の中ではコンセプトが似た作品である『アニソンの神様』はその辺りが実に上手く出来ていたと思うのだけど。ラノベレーベルじゃないから思い切ったことが出来なかったのかも。
それでも雰囲気の良さと読みやすさは間違いないので、古き良き小さな映画館の空気を味わいた人にはいいかも。