いつも月夜に本と酒

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「血翼王亡命譚 III ガラドの夜明け」新八角(電撃文庫)

血翼王亡命譚 (3) ―ガラドの夜明け― (電撃文庫)
血翼王亡命譚 (3) ―ガラドの夜明け― (電撃文庫)

女王メルトラと猫の長官ディナンの策略によって引き起こされた争いは、亡命者の運命を飲み込んでいく。
偶然にも白三日月の国の要人警護を請け負ったユウファ達。赤燕の国の刺客が彼らを襲い、両国を巡る戦火の火ぶたは突如切って落とされた。積み上がる死体と仲間達の負傷。さらにはイルナが秘血と呼ばれる軍事機密に関わったことで、囚われの身となってしまう。
イルナを救うため、戦争を止めるため、メルトラとの因縁に決着をつけるため。満身創痍となりながら手に赤き焔の刃を握り、ユウファは己の宿命と向かい合う。
そして赤刀に眠るアルナが目覚める時、二人の切なる想いと共にすべての因果が巡りだす――。

ああ、終わってしまうのか。イルナとの旅は始まったばかりの気がするのに。血翼王の秘密にも、もっとゆっくり迫ってほしかったのに。
そんなわけで最終巻となる今回は、今すぐにでも戦争が始まりそうな危うい状況の中で、何とかして踏みとどまらせようと奔走するユウファ達の奮闘を描く。
作中ではユウファが国と国の間を犬の背に乗り駆け回っているが、展開も負けず劣らずの駆け足進行。これまでぼかされてきた事実が次から次へと出て来て、理解が追い付くのが大変。『翼』なんかは終わりの方にさらっと出て来て、そういえばイルナはそれを追ってたんだと思いだしたくらい。でも、こんなに慌ただしかったのにきちんと伏線を拾っていけるのは、しっかり物語の構成が出来上がっているからだろう。後半の血翼王の正体からタイトルが『血翼王亡命譚』だった意味が分かるところまでの流れは本当に綺麗。それだけにもっとゆっくりじっくり紡いでほしかったのだが。
また、人間ドラマもとてもよかった。
ユンファ達は何度も何度も辛い選択を、覚悟を、別れを迫られる。それに対して出す答えはどれも綺麗事で青臭い。でも彼らはその言葉に行動が伴う。仲間のために、自分の信念のために、愛する人のために死力を尽くす姿が美しくて泣けてくる。
トドメは『後書き』。これは涙腺にくる。自分が読んだ中ではもっとも美しいあとがきかもしれない。(これはあとがきじゃないと言われればそれまでだけど)
ここで終わってしまうのがつくづく残念。新人賞のファンタジーで同じ銀賞からヒットした『狼と香辛料』や『はたらく魔王さま!』辺りと比べると、ちょっと硬派過ぎたのかもしれないな。
でも最後まで透明感のある美しさと力強さをもった物語で、私は大好きでした。