いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「妖姫のおとむらい」希(ガガガ文庫)

妖姫のおとむらい (ガガガ文庫)
妖姫のおとむらい (ガガガ文庫 ま 7-1)

ある日、比良坂半は旅先で奇妙な空間に迷いこむ。そこで妖の姫と出会い、未知なる食の存在を知る。それからというもの、どうにも変な場所、変な空間に迷いこむ癖ができてしまったようで――。妖姫はそんな青年と行を共にして、彼を救ったり救わなかったり。そうして青年は、ときどき発作的に訳のわからない食欲を妖姫に催したりもして。「風鈴ライチの音色」「焼き立て琥珀パンの匂い」「ツグミ貝の杯の触り心地」「ホロホロ肉の歯ごたえ」。全四篇からなる幻想的な旅と奇妙な味覚の数々。そして二人の旅はゆるゆると、続く――。

これはいい。素晴らしい雰囲気小説。
まず目を引くのが和風で幻想的でおどろおどろしい雰囲気と、それを作り出すことにステータスを全振りしたような文章。現実離れした世界観なのにも関わらず、すんなり映像が浮かんでくる情景描写が素晴らしい。出来ることならこの情景を台詞無しのBGMとアニメーションだけの映像作品で楽しんでみたい。
そしてその世界観の中に出てくるのは、白髪のSっ気美少女やヤンデレ気味年上幼馴染みという倒錯感のあるヒロインたちに、クラシックなカメラや自動車にスイッチバックの登山鉄道、ライチに焼きたてパンに数々の酒の肴たちという完全に趣味丸出しなラインナップ。作者が好きなものを全力で詰め込みましたと言わんばかりの潔さが気持ちいいし楽しい。
難点としては、文章が読み辛いところか。
地の分の語り口に時々古めかしい口語が混ざっていたり、句読点の使い方が変わっていて文章のリズムが独特だったりするのは雰囲気を出すためのだと思うので別にいいとして、鍵カッコの使い方だけは普通にしてほしかった。
何故か台詞の途中で鍵カッコが閉じられていて、前の「」と次の「」が同じキャラクターの台詞というところが多々ある。これが非常に読み辛い。読み進めれば口調で誰が喋っているのか大体わかるが、折角不思議ワールドに浸っているのに「あれ?」っと思ったとたんに現実に引き戻されるのが、読むのにはストレスだし折角雰囲気を持った作品なのに自分で壊しにいっているようでもったいない。(作者がゲームのライターだから台詞のテキストはある程度の長さで切る癖が付いているのかも)
それでも独自の世界観、この作者でしか作れない色を持った作品でとても良かった。こういう流行りと離れたところで味のある作品が稀に出てくるのがガガガ文庫の面白いところ。
上に挙げた作者の趣味にどこかしら引っ掛かる人にはおすすめ。ストーリー性を重視する人には合わないかもしれない。