いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「勇者のセガレ」和ヶ原聡司(電撃文庫)

勇者のセガレ (電撃文庫)
勇者のセガレ (電撃文庫)

所沢市の一般家庭、剣崎家では緊迫の家族会議が開催されていた。謎の金髪美少女ディアナが、異世界から剣崎家のリビングに現れたのだ。
「私は救世の勇者、ヒデオ・ケンザキ召喚の使者としてやってきました」
……って、ヒデオって俺の親父じゃねーか! 平凡な高校生の俺こと剣崎康遊にゲームみたいな展開が降りかかると思いきや、親父が勇者で、若い頃異世界を救ったって!? どう見ても普通の中年な親父が「勇者」だとか信じられる訳がないし、ディアナは「勇者の息子」である俺に憧れの眼差しを向けてくるし……。
異世界を救う前に、家族の平和が大ピンチ! 俺の日常は一体どうなる!?

父は元異世界の勇者、母は元魔法使い。その事実を異世界の存在とその危機と一緒に、異世界から来たという金髪美少女に告げられ、さらに父は仕事を止めて異世界を救いに行きたいという。そんなゲームかアニメかという現実離れした事実を突きつけられた高校生男子の反応を、とことんリアルに描いた作品。
よくある異世界ファンタジーの導入部で非現実をすんなり受け入れる主人公たちに感じる違和感、過ぎたご都合主義で溜まっていくモヤモヤへのツッコミを一手に引き受けて代弁してくれているようで、読んでいて「そうそう」とか「普通はこうなるよね」と思わず肯いてしまうのと同時に胸がすく思いだった。
そんな一発ネタをやりつつ、物語の本題は主人公の成長なのが良いところ。
受験勉強に追われ好きだった合唱部は部員不足で潰れ、日々漠然と過ごしている主人公が、親と家族の問題に晒されたり、現代人にも異世界人にも懸命な姿を見せつけられたりすることで、受験生としても男としても少しずつ変化していく様子が丁寧に描かれている。
と、基本的には『はたらく魔王さま』より真面目な話だが、異世界の武器が銃型のライターみたいだったり、敵と派手に戦った後に気にするところが警察や近所の人への言い訳だったりと、あちこちで地味に生活感が滲み出てコミカルになる辺りは流石『はたらく魔王さま』の作者。でも魔法熟女は卑怯だ!w
話は魔王の目的は分からず、主人公を好きな少女には不穏な影が、といくつもの謎と伏線を残したまま終了。……って、シリーズものだったのか。この前の『ディエゴの巨神』のような単発なのかと。
やりたいことはやり切った感があるが、大丈夫なんだろうか。この後はこれといった特徴の無い普通の異世界ファンタジーになりそうなんだけど(^^;