いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「リンドウにさよならを」三田千恵(ファミ通文庫)

リンドウにさよならを (ファミ通文庫)
リンドウにさよならを (ファミ通文庫)

想いを寄せていた少女、襟仁遙人の代わりに死んでしまったらしい神田幸久。二年後、自由かつ退屈な日々を過ごす地縛霊として目覚めた彼は、クラスでいじめに遭う穂積美咲にだけ存在を気づかれ、友達になることに。一緒に過ごす内に美咲の愛らしさを知った幸久は、イメチェンを勧め彼女を孤独から解放しようと試みる。少しずつ変わり始める美咲の境遇。それはやがて、幸久が学校に留まる真実に結びついていく――。必然の出会いが紡ぐ、学園青春ストーリー。

第18回えんため大賞ファミ通文庫部門優秀賞受賞作



地縛霊となった少年・神田幸久が、クラス全体にいじめられている少女・穂積美咲を救い上げる物語。
主人公が幽霊=「死」とヒロインが受ける「イジメ」をテーマにした作品とあって冒頭からかなり重苦しい空気が流れている。特にイジメの方は「場の空気」の怖さを重視して語られていて陰湿で生々しい、胃にくる重さ。また、美咲の何気ない一言から呼び起こされる神田の生前の想い人との思い出が、切なく美しい反面、美咲の境遇とシンクロして心の傷の痛さ助長する。
しかしスタートがどん底という事は、そこからはもう上昇しかないという事。
幽霊だが初めての友達という心の支えとその彼のアドバイスを得て、外見に勉強に人付き合いにと、少しずつ明るく前向きになっていく美咲の姿に、彼女の景色がほんの少し色付いていく様子に心を打たれる。そして、その成長は教える側の神田にも……。
惜しむべくはその神田の行き付く先、オチの仕掛けがあまりにも分かりやすかったところか。直前に気付くくらいが丁度いいのに。そこまでは望まないけど、初めから匂わせすぎていた。これだと伏線というより真正直なヒントだ。
それでも亡き人の想いが語られ、切なさと嬉しさが入り混じるラストシーンは格別に綺麗なのだけど。
彼らの境遇と作品の雰囲気が一番下から徐々に上がっていく展開が上手く、その中で生きる若者たちの姿が痛々しくも力強くて尊く思える、素晴らしい青春ストーリーだった。
えんため大賞はこうした青春を全面に押し出した作品がコンスタントに出てくるのが良いところなんだけど、その後中々長続きしないのが難点なのよね。庵田さんくらい? 久遠さんと共にこの路線で頑張って欲しい作家さん。




激しくどうでもいいけど、地縛霊くんの名前がファミ通文庫の歴代男主人公の名前をミックスしたような名前だなとw