いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「スーパーカブ」トネ・コーケン(角川スニーカー文庫)

スーパーカブ (角川スニーカー文庫)
スーパーカブ (角川スニーカー文庫)

山梨の高校に通う女の子、小熊。両親も友達も趣味もない、何もない日々を送る彼女は、中古のスーパーカブを手に入れる。初めてのバイク通学。ガス欠。寄り道。それだけのことでちょっと冒険をした気分。仄かな変化に満足する小熊だが、同級生の礼子に話しかけられ―「わたしもバイクで通学してるんだ。見る?」1台のスーパーカブが彼女の世界を小さく輝かせる。ひとりぼっちの女の子と世界で最も優れたバイクが紡ぐ、日常と友情。

刺さる人には刺さるパワーワードのタイトル。ラノベの常識からかけ離れた、でもタイトルにはぴったりの地味な表紙。そして内容。パーフェクトだ。(唯一不満があるとすれば口絵の礼子(主人公ただ一人の友人)が無意味にビキニなことくらい。そこはどう考えてもツナギだろう)
何年ぶりかでタイトル買いしたラノベだったのだが、タイトル買いでは人生一番の当たりを引いた。
でも実は第一印象はあまりよくなかった。
少女×スーパーカブということで、カブへの愛とロマンとフェチズムが溢れる変態的な作品が出てくるのかと思っていたので、父は居らず母は失踪、奨学金で細々と暮らす女子高生という主人公・小熊のヘビィな境遇に思いっきり面食らったところからのスタートだった。しかも、ぼっちで無趣味で無感動な小熊がみる景色は灰色で、文章も極めて簡素で淡泊。
しかし、小熊はぼっち少女にありがちな気弱でひ弱な性格ではなかった。
ちょっとした気の迷いと勢いで買ってしまったスーパーカブを手に入れたばかりの小熊は、バイクに触るのですらおっかなびっくりで、危なっかしくて目が離せない。徐々にバイクに慣れていってからも、意外とチャレンジャーな小熊の行動は常にちょっとだけ背伸びで、やっぱり危なっかしくて目が離せない。こうしていつのまにやら話に引き込まれていた。
スピードを出し、雨に降られ、パンクを経験しと、様々な出来事から小熊が次第に成長していっていることに一喜一憂するようになり、後半にはカブへの愛着やこだわり見せる小熊の姿に、当初期待した愛やロマンが楽しめる。それに初めの小熊からは考えられない、また女子高生とは思えないカブ愛エピソードが、笑えるのにどこか誇らしいという不思議な気持ちを味あわせてくれた。
結局最後まで簡素で淡泊な文章も、少しずつ少しずつ成長していく小熊の姿も、質実剛健という言葉がよく似合うスーパーカブのイメージにピッタリだった。
一人の少女の成長記録でもありながらスーパーカブへの愛も詰まっていて、とても面白かった。タイトルに惹かれた人は迷わず買うべし。