いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「活版印刷三日月堂 庭のアルバム」ほしおさなえ(ポプラ文庫)

([ほ]4-3)活版印刷三日月堂 庭のアルバム (ポプラ文庫)
([ほ]4-3)活版印刷三日月堂 庭のアルバム (ポプラ文庫)

小さな活版印刷所「三日月堂」には、今日も悩みを抱えたお客がやってくる。店主の弓子が活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶や、言えなかった想い。しかし三日月堂を続けていく中で、弓子自身も考えるところがあり……。転機を迎える、大好評シリーズ第三弾!

活版印刷所を舞台にした短編連作小説、第三弾。



やっと彼女の番が来た。
これまで悩みを抱えたお客さん達の心を、活版印刷の独特の味わいと丁寧な仕事(とその姿勢)で少しずつ救ったり解したりてきた三日月堂の店主・弓子。でも本当は、彼女こそが最も救いを必要とする天涯孤独の身だったりするわけで。そんなわけで今回は弓子本人と早く病気で亡くなった彼女の母カナコが一つの大きなテーマ。
弓子が天涯孤独なのだから、彼女の過去が語られる=家族との死別の話になる……当たり前の事なのに頭から抜けていて油断していた。母の大学時代の友人達が母の思い出を語っていく二話目「カナコの歌」、これはずるいよ。よくお見舞いに行っていた友人から語られる死ぬ直前の母の言葉と、家族への強い愛と無念さが感じられる生前の母が詠んだ短歌の相乗効果で涙が止まらなかった。
また、本来の三日月堂を中心にした物語の方は「ついにここまで来たか」って感じ。
前の話で作ったものが次の話の人の目に留まり、その人が三日月堂を訪れる。そうやって三日月堂を中心に繋がって広がってきた人の縁が、三日月堂再開時からの宿題だった平台=大判印刷機まで辿り着いた。
まだ直せる人と出会っただけで、動かせるようになるかは次になってみないと分からないが、弓子が刷った活版印刷に出会って心動かされた人の、ほんの少しの幸運とそこから尋ねてみようと一歩を踏み出す勇気によって辿り着いた大きな幸運に感慨も一入。
弓子の一つの夢が現実味を帯びてきて、おまけに彼女のことが気になる男性も出て来て、これは次が楽しみだ。