いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「心の落としもの、お預かりしています ―こはるの駅遺失物係のにぎやかな日常―」行田尚希(メディアワークス文庫)

千葉県の〈こはるの駅〉に勤める若き駅員・日渡は、ある日、問題児がいることで有名な遺失物係へと配属される。
ネガティブな思考で周囲を困惑させる須藤。空気を読まない発言ばかり連発する成島。この個性的な二人とともに、真面目な日渡は、日々届けられる奇妙な落としものと、複雑な事情を抱えた落とし主に、真摯に向かい合っていく。
まるくてトゲトゲした小動物、抱えきれない大きな花束……駅で見つかる落としものには、ささやかだが心温まるドラマが詰まっている――。

駅の遺失物係を舞台にした落とし物にまつわるハートウォーミングストーリー。



いい人な主人公が、いい人なばかりに割を食う話、搾取されているような話は大嫌いである。迷惑をかけている側が無自覚だったり悪びれもしない様子にも、それでいいにしてしまっている主人公にも腹が立つので。
という観点からみて、開始10ページで嫌な予感しかしなかった。しかし、思いの外すんなり最後まで読めた。
主人公は思った通りに割を食うタイプのいい人だったけれど、冒頭以外ではあまり愚痴や弱音を吐かなかったのが良かったのかも。それに、ヒステリック&ネガティブな女性職員(須藤)は事前情報ほどではなかったこと、いつまでも学生気分の後輩(成島)の扱いがわかっていたことも。要するに思ったよりも普通だった。
また、ハートウォーミングの方には構造的な欠陥が。
各話ハッピーエンドで終わってくれるいい話なのは間違いないのだが、職員たちは落とし物をした人とはあくまで他人。その為、各話の登場人物の転機には立ち会えても、ハッピーエンドになるまでの経過がどうしても事後報告になるので、共感するほど親身になれないし、ご都合主義に感じてしまうところもあるしで感動が薄い。第四話のお父さんはあの後どうやったんだ? どうやっても拗れる図しか思い浮かばないのだけど。
かなり薄味だった。冒頭で嫌いと言いながら勝手な言い分だが、読めないくらいアクが強かった方が印象に残ったかもしれない。