いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「人形剣士は絶ち切れない 一等審問官ガルノーの監視記録」林星悟(MF文庫J)

人形剣士ブレイスにはある疑いが掛けられている。奴は人形のリネットと共に魔獣を狩る独自の戦闘スタイルで名を馳せている……が、実はリネットが人間なのではないか、という疑いだ。本物の少女を操って戦っているのなら、それは攻撃魔法とされ重大な犯罪行為に値する。奴の悪行の証拠を掴むために私、ガルノー・ギルトフッド一等審問官は三ヶ月の間、監視任務に当たっていた。そんな中、世間を騒がせている「陽炎事件」の首謀者、幻術使いのバーズ捜索に同行することに。ブレイスの活躍もあり、事件は収束したがそれは、更なる陰謀の序章でもあった――。最優秀賞を受賞した、決して絶ち切れることがない、二人の絆の物語。

第14回MF文庫Jライトノベル新人賞最優秀賞受賞作。


魔物や魔獣が蔓延る世界で、人形を使って戦う剣士が魔獣退治の旅をしている物語。
設定が盛り盛りなところとか、尺に収めるためにややダイジェスト気味なところとか、新人らしい面もあるが、それを差し引いても最優秀賞にふさわしい完成度の高い作品だったと思う。特に、人形使いの主人公グレイスの秘密を追ううちに物語が広がっていく話の進め方や、乱戦が主体のバトルシーンの迫力は光るものがあった。
しかし、それらを差し置いて最大の特徴と言えるのが、タイトルの『一等審問官ガルノーの監視記録』の部分。主人公とその人形の戦いを、彼らに法律違反の疑いを目を向ける審問官の目線で語られるのが、一番のオリジナリティ。そして、これが問題点。
これが『監視記録』の名に相応しい淡々と語り口だったり、疑いの目から活躍に惹かれていくとかなら何も気にならなかったのだろうが、問題はこの語り部のガルノー審問官が傲慢で鼻持ちならないキャラクターであったこと。やっていることは、監視じゃなくて同行の強要と邪魔。しかも、主人公がこの審問官に付き従う理由が一切示されないので、「そんなの捨て置けばいいのに」と開始からずっと思っていた。
語り部の性格が許容できるかどうかが、この作品を楽しめるかどうかの分岐点。残念ながら自分は不愉快さしか感じなかった。