いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ぼくたちの青春は、覇権を取れない。 〜昇陽高校アニメーション研究部・活動録〜」有象利路(電撃文庫)

ぼくたちの青春は覇権を取れない。 ‐昇陽高校アニメーション研究部・活動録‐ (電撃文庫)
ぼくたちの青春は覇権を取れない。 ‐昇陽高校アニメーション研究部・活動録‐ (電撃文庫)

「どんな人間であれ、一日でアニメを約57本しか観ることが出来ない」
ぼく、こと坂井九太郎が所属するアニ研は、上記のような世迷言を乱発する部長をリーダーとするダラダラ部活動だ。(ちなみに30分アニメからCMを抜くとOPED含め実質25分だからそれで計算して57本らしい。なんてアニメバカなんだろう)。部員はぼくと部長と、部長の幼馴染さん(女性。現実にいるんだ……なんてアニメキャラっぽいんだろう)の3人のみ。
生徒会にも目をつけられてるようだし、果たして今後どうなるのかなと思っていたところに、来訪者が現れた。それはぼくの学年で一番注目を集めている美少女・岩根美弥美さん。彼女の出現を皮切りに、部には「アニメ」にまつわるちょっとした事件が次々と巻き起こり――?

第24回電撃小説大賞最終選考の拾い上げ作品。



流行りの同人製作系の部活ラノベかと思ったら、アニメをきっかけに生まれる人間ドラマを描いたミステリ風味の作品だった。
亡き家族との記憶を思い出す手助けをする第一章、保健室登校の生徒に笑顔を取り戻す第二章、どちらもアニメがちょっとしたきっかけになって、所謂コミュ症といわれるタイプの少女が救われる話で、素朴で素直に感動できる人間ドラマになっている。
そこまでは良かったのに、本腰を入れたであろう第三章からが微妙。なんだか急に雑になる。
ミステリの仕掛けそのものは、巷に溢れ返るミステリ風味作品に比べればよほど練られている。ただ、そこに組み合わせた人間ドラマが、話の流れも諸々の設定も強引でリアリティが無さすぎた。
前の二章とその後では出来栄えが段違いなのは、改稿するのに二章まで力尽きたか、ミステリ要素にしか目がいかなくなった結果かな。新人賞作品だから仕方ない……のか?
前述のとおり第二章まではいい話で、後半もミステリ部分だけなら悪くない。時折挿まれるアニメーションの歴史は興味深いし、モブっぽいけどヘタレじゃない主人公や子犬系ヒロインの魅力も申し分ない。部分的にみれば良いところはいっぱいあるのに、後半の話そのものの印象が良くない所為で大きく損している。色々と惜しい作品だった。