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「ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン XIV」宇野朴人(電撃文庫)

ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミンXIV (電撃文庫)
ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミンXIV (電撃文庫)

ついに帝国本土へと侵攻を始めたキオカ軍。国境近くの平原で対陣した両軍は激しく激突。爆砲の圧倒的な威力に塹壕戦で対抗する帝国軍だが、ジャンの知略はそれすらも貫き、戦線後退を強いられたイクタたちは厳しい防衛線を続ける。
一方、海での戦いはそれ以上の危機に直面する。艦隊の全艦を爆砲艦で揃えてきたキオカ海軍を前に、帝国海軍はまともな戦闘にさえ持ち込めず撤退を開始。
精霊通信の開通によって、戦場の全ての情報をリアルタイムで把握し対応するようになったジャン。指揮下の全軍をして「完全な軍隊」と自負する彼を相手に、イクタ率いる帝国軍は勝機を見出せるのか――。

全面戦争開戦――から始まる最終巻。
矛のジャンと盾のイクタによる将棋かチェスのような攻防。……は、呆気ない終わりを迎える。リアルに「え?」と言ってしまうくらいに。確かに、ある程度の国力を保ったまま負けるにはこのタイミングしかないが、これは勝ちだろう。まあ本題はここじゃないからいいけどさ。
それにしても、本当に1巻のラストでシャミーユが語った夢に辿り着いてしまった。14巻分の出来事がここに繋がる道筋だと思うと、感慨深いのと同時にこの物語の構想の壮大さに改めて驚く。
それを感じさせてくれるのが裁判期間中、牢屋でのイクタと主要人物たちとの“個人面談”。これまでの思い出のシーンがいくつも思い起こされるし、それぞれのイクタへの想いの強さが伝わってくるし、どれもが別れを印象付けていくしで、落涙必至。ああ、泣いたさ。マシューのが一番泣いた。


フィクションだけでなく歴史でも度々登場する「英雄」という名の犠牲(イケニエ)の存在を否定し続けた物語。
絶対に英雄にだけはなりたくなかった青年が、一人の少女の為に、他に英雄を生まない為に、英雄になって散っていった。今思うと、ヤトリがあそこで亡くなったのはこのラストを迎える為には必然だったのか。彼女が生きていたら、イクタが全員で生きる道を探してしまって、英雄を否定する言葉に説得力が無くなってしまうから。そして彼が一人になってしまうから。イクタ、ありがとう。お疲れ様。
ライトノベルらしいキャラクター小説としての側面はもちろん、戦記、ファンタジー、科学など色々な方面から、沢山の新鮮な驚きと楽しさをくれた最高のシリーズでした。出会えて幸せでした。