いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「君とまた出会う未来のために」阿部暁子(集英社オレンジ文庫)

また君と出会う未来のために (集英社オレンジ文庫)

仙台の大学に通う爽太には秘密があった。九歳のころに海で溺れ、遠い未来――2070年の世界へと時を超えて迷い込んだことがあるのだ。現代に戻ったあとも、未来で助けてくれた女性を忘れられずにいたが、アルバイトがきっかけで知り合った八宮和希という青年に「おれは過去から来た人に会ったことがある」と告げられて……? 出会いと願いを描いた感動作!

タイムスリップ×ボーイミーツガールの傑作『どこよりも遠い場所にいる君へ』の姉妹編。世界観が同じなだけかと思っていたら、前作の登場人物がしっかり話に絡んでくる正統派な続編だった。
過去からきて過去へ帰っていった少女を見送る少年・和希の話だった前作に対して、今作は未来へ行って帰ってきた少年・爽太が主人公。震災直後の複雑な家庭事情もあり、未来で出会った女性が忘れられず、戻ってきてからは心が抜け殻ようだった爽太。それでも少しづつ今を取り戻しつつあった爽太が、タイムスリップの経験者・和希と出会うことで物語が動き出す。


元々タイムスリップ×ボーイミーツガール×泣きと好きな要素ばかりで好みのど真ん中だったのだけど、今作はそれ以上。前は足りなかった甘さと幸福感がある。
前作は本人とは関係のないところで未来が断たれ、理不尽な蔑みを受けていた和希が前を向いて歩けるようになる話で、未来への希望はあっても二人がもう一度出会う可能性はなく、二人きりの思い出もない切なさが勝った“一人”の物語。今作は初めからもう一度会う可能性を探し求める力強さがあり、大変な未来は見えているものの“二人”の可能性がある物語。やっぱり、ボーイミーツガールは別れのラストよりも、二人で手を取り合えるラストが好きだ。
それに、震災が絡んだ話とあって「死別」が大きなテーマになっていて、自分の願いや生き様を取るか、残される者の気持ちを取るかで葛藤する場面が多く、泣きの要素も衰えていない。まあ、爽太が度を越した泣き虫なのはちょっとずるいと思うけど。あれだけしょっちゅう泣いていていたら、貰ってしまう場面も出てくるって。
好きな要素の詰まった作品の続編で期待はしていたけれど、さらに好みに合うものが出てくるとは思わなかった。控えめに言って最高でした。