いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「愛之助(推定2歳・雄)の考察 その恋は猫の手も借りたい」汐見舜一(富士見L文庫)

愛之助(推定2歳・雄)の考察 その恋は猫の手も借りたい (富士見L文庫)

ぼくの名前は愛之助。背中のハート柄が自慢のオス猫だ。ゴールデンレトリバーのルーイと共に、千尋というとってもキュートな人間のメスと暮らしている。
ぼくらの目下の心配事は、ご主人さまである千尋の彼氏問題。なにかとオス運のない千尋に、最近気になるオスができたみたいなんだけど…はたして愛する千尋を託すに値する人間なのか。
「つまり、君の出番です。愛之助
「やれやれ、しかたないなぁ」
人間ってやつは猫の手を借りたがるものだ。恋だって同じさ。ぼくが晃ってやつを見極めてやる!

豆腐メンタルで男性不信気味の女性の恋バナを猫目線で追う物語。
人間と言葉が通じることはないが、猫同士や犬、雀など他の動物との会話は成立している世界観。動物たちの人間界の常識への理解度の高さに序盤は違和感があるが、一種のファンタジーなのでこれはこれで。ただ小町の若者言葉はどうにかならなかったのか。快不快の問題ではなく、文章にすると単純に読み辛い。
という細かい小言はこのくらいにして、
愛之助くんの適度なおバカ具合と調子の良さが大変愛らしい作品。基本考えなしなのと、室内猫なのにご主人様が心配でしょっちゅう家を抜け出すので、『愛之助の考察』というよりは『愛之助の冒険』の方が合っていると思う。
猫目線作品は、人間関係のしがらみや痴情のもつれなんかを、猫が小バカにした作品が多い印象で、この作品の人間たちも面倒くさい恋愛脳の持ち主たちだったので、猫が「やれやれ」って言う話の流れになってもおかしくなかった。
それが、ちょっとおバカでご主人様ラブな愛之助を通して見ると、人間たちの滑稽なドタバタがコミカルで微笑ましく映るから不思議。そこに、ご主人様の恋の成就のために奮闘するも空回りする愛之助の残念さと、なんだかんだで各章がグッドエンドで終わる読後感の良さも合わさって、読んでいると笑顔になれる作品だった。