いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「世界で一番かわいそうな私たち 第一幕」綾崎隼(講談社タイガ)

戦後最大の未解決事件〈瀬戸内バスジャック事件〉に巻き込まれた十年前のあの夏から、声を失った三好詠葉、十七歳。彼女は舞原杏が教壇に立つフリースクール――静鈴荘で傷を抱える子どもたちと学び、穏やかに暮らしていた。佐伯道成が教師として働きはじめるまでは……。詠葉の揺れる心に気付かぬまま、生徒の不登校を解決しようと奮闘する佐伯。彼が辿り着いた正解とは?


バスジャック事件に巻き込まれた少女の当時の様子に、その後、声が出なくなるまでの顛末。衝撃と沈痛のオープニングから始まる物語。舞台はその十年後の東京。
戦後最大の未解決事件と銘打たれた序章とは打って変わって、プロローグからの本編は不登校の児童/生徒の通うフリースクールの話。事件の当事者となってしまった少女・詠葉が通い、オーナーも被害者の小説家・舞原詩季(名前は良く出てけど、やっと本人が出てきた)と、事件との繋がりはあるものの、メインはフルースクールに転がり込んできた新米教師が、不登校になった優等生の理由を探り無実を証明する為に奮闘する話となっている。
理想の教師像を追う新米教師・佐伯道成の一生懸命さと、それゆえの危うさにハラハラしつつ、犯人捜しの物語にもなっていてミステリとしての楽しみもある。
しかし、物語の中心にいた彼らをさし押して最も印象に残るのは、生徒たちが憧れ佐伯の目標になっている、詩季の妻にして「完璧な教師」舞原杏。
その印象は一言「怖い」
やっていることは傷のある子への手助けなのに、どうしてか人間味を感じない完璧すぎる振る舞い。全てを見通しているような度を越した推理力に愛情が見えない夫との関係(結婚した理由が不明)。どの行動でも彼女の真意が見えてこない。極めつけは序章のバスジャック犯の筆談と雰囲気が被る冷淡な口調。
これは……と思っていたら、二重の意味で衝撃のラストが! ここからどう繋げるのだろう。続きが楽しみ。