いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「言鯨【イサナ】16号」九岡望(ハヤカワ文庫JA)

神“言鯨(イサナ)”によって造られた砂の時代。全土は砂漠化し、人々は言鯨の遺骸周辺に鯨骨街(げいこつがい)を造って暮らしていた。街々を渡る骨摘みのキャラバンで働く旗魚(かじき)は、旅の途中で裏の運び屋・鯱(しゃち)と憧れの歴史学者浅蜊(あさり)に出会う。執政機関ヨナクニには内密で、十五番鯨骨街へ奇病の調査に行く――そう語る浅蜊に同行を許され、心躍る旗魚。だが浅蜊が遺骸に近づきある言葉を口にした瞬間、黒い影が現れ、圧倒的な力で世界を破壊し始めた。


非常に読み応えのあるファンタジーにしてSF。
一面砂の大地に、黒光りしてそびえる骨の森。その森の側で栄える街々、砂漠を行き交う大小様々な船と、砂に生きる蟲たち。そして大きな力を持ちエネルギーとしても使われる「言葉」。この「言葉」の解釈が独特で、初めのうちは戸惑うことが多いが、そこさえ慣れてしまえば独特で重厚な世界観に浸ることができる。
主人公たちの目的が亡くなった学者の秘密を探ることで、常に執政機関に追われる逃避行なので、砂漠も街もあちこち駆けずり回ることになり、未知の世界を冒険するワクワク感が味わえた。
と、ここまでがファンタジー
これが主人公たちの旅によって、世界の秘密が明らかにされていき、あるポイントを境にSFにスイッチが切り替わる。
「言鯨(イサナ)とは?」や「学者の死の謎」を筆頭に、旅路で示されてきた謎のすべてに答えが示される気持ちよさがありつつ、この世界の人間の秘密を知ってもなお足掻く主人公の姿に、タイトル『言鯨16号』の意味が分かり、ある種のSF的なロマンを感じずにはいられない。(ある種を言ってしまうと大きなネタバレになるので言えない)
前半は世界観に浸り、後半はある命題を考えながらSFを楽しむ。二度おいしい一冊だった。