いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「継母の連れ子が元カノだった 昔の恋が終わってくれない」紙城境介(角川スニーカー文庫)

ある中学校である男女が恋人となり、イチャイチャして、些細なことですれ違い、ときめくことより苛立つことのほうが多くなって……卒業を機に別れた。
そして高校入学を目前に二人は――伊理戸水斗と綾井結女は、思いがけない形で再会する。
「僕が兄に決まってるだろ」「私が姉に決まってるでしょ?」
親の再婚相手の連れ子が、別れたばかりの元恋人だった!?
両親に気を遣った元カップルは、『異性と意識したら負け』という“きょうだいルール”を取り決めるが――
お風呂上がりの遭遇に、二人っきりの登下校……あの頃の思い出と一つ屋根の下という状況から、どうしてもお互いを意識してしまい!?


作品の簡単な紹介は……必要ないか。タイトルまんまだし。タイトルは元カレ側の目線だが、中身は元カレ・水斗視点と元カノ・結女視点の交互で語られる。

なるほど、これはニヤニヤ度が高い。
元恋人が義兄弟という特殊な状況と、お互いに意地っ張りな性格が見事な化学反応を起こして、笑えるのに悶えるこれぞラブコメディという作品に仕上がっていた。口では罵りあいながら、やっていることは仲睦まじさしか感じないイチャイチャっぷりが素晴らしい。
特によかったのがヒロイン・結女。
初めのうちは彼女自身は優等生で水斗の方はヤな奴的な描写が多く、これは喧嘩別れしてもしょうがないという空気だったのに、結女の視点で彼女の内心とポンコツ具合が次第にわかってくると、どんどんどの印象が変化していく。
水斗のことを「クソオタク」と言いながら元根暗少女を色濃く引き摺っているのは彼女の方だったり、恋人時代の思い出を黒歴史風に語る各話の冒頭は彼女の方がムッツリだったり、その内「好き」が溢れて暴走しだすのは結女だけだったり。
その変化が行き着いた先のデートの話が秀逸。それでなくても取り繕いと遠慮がなくなり自然体になるいいシーンなのに、そこで売り言葉に買い言葉で坂口安吾森鴎外が出てくる君たちが好きだ。これを見せつけられたら誰だって入り込むのを諦めるわ。それにデート後の酷さと言ったら。水斗君、これはもう君が引き取るしかないと思うぞ。
甘さに全力のラブコメでとても面白かった。次があるなら新ヒロイン登場らしいのだが、この二人の間に割り込む隙間はあるのか?