いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「占い居酒屋べんてん 看板娘の開運調査」おかざき登(実業之日本社文庫)

女子高生の菜乃は、駅の改札でスリの現場に遭遇、あやかを救う。財布を盗まれずに済んだあやかは、お礼に自らの酒屋で唐揚げ定食をご馳走。その美味しさに驚いた菜乃は、店で働くことに――。グラスに落とした花びらで運勢を見るカクテル占いのあやか、本業は探偵の店員・千種、引きこもりでゲーマーのやよいらと共に、菜乃は店に持ち込まれる事件や謎を追う。
著者初の一般文芸文庫、書き下ろし!!


おかざき先生流石の飯テロ力。
一般文芸で堂々と酒が飲めるとあって酒の肴がどんどん出てくる。……って、そういえばMF文庫Jでも居酒屋で酒飲んでたわw
初めの唐揚げから全て美味しそう。その中でもコチとか蕎麦味噌とかカマ焼きとか、酒飲みの呑み欲をそそる絶妙なチョイスがにくい。

話は占いの出来る居酒屋『べんてん』のママ・あやかと、従業員にして探偵(事務所はべんてんの上階)の千種に持ち込まれる謎や事件を解決していく、1話完結で4話構成のオーソドックスな作りの日常ミステリ。あやかをスリの父に技術を叩き込まれた女子高生・菜乃が助けた事から物語が始まる。
癒し系オーラたっぷりにママさんに、実利よりもロマンを追うお茶目な探偵、それと気のいい常連たちが作り出す『べんてん』の空気が温かい。これがこの作品の最大の魅力。
探偵の千種が、大人としてはダメだけど探偵としては有能なので、各話の事件の顛末も興味深く読めるが、話のキモは菜乃の変化。特殊な家庭環境ゆえに人に馴染めず刺々しい態度の菜乃が、各話の事件で人の機微に触れ、『べんてん』の人の温かさに触れ、一話ごとに角が取れていく様子にほっこりできるのがいい。
特に、もう一人の尖った十代の少女・やよい(あやかの妹)がメインの第四話はそのほっこり感が2倍。本を巡る話というのもあって、この第四話が一番好き。
旨そうな酒と肴に、人の機微というもう一つの肴。のんびりと一杯やりたくなる一冊だった。