いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「鏡のむこうの最果て図書館 光の勇者と偽りの魔王」冬月いろり(電撃文庫)

空間が意思と魔力を持ち、様々な魔物が息づく世界・パライナの北端に、誰も訪れない《最果て図書館》はあった。
記憶のない館長ウォレスは、鏡越しに《はじまりの町》の少女ルチアと出会い「勇者様の魔王討伐を手伝いたい」という彼女に知恵を貸すことに。
中立を貫く図書館にあって魔王討伐はどこか他人事のウォレスだったが、自らの記憶がその鍵になると知り……
臆病で優しすぎる少女。感情が欠落したメイド。意図せず世界を託された勇者。
彼らとの絆を信じたウォレスもまた、決戦の地へと赴く――
これは、人知れず世界を守った人々のどこか寂しく、どこまでも優しい【語り継がれることのないお伽噺】

第25回電撃小説大賞《銀賞》受賞作


訪れた勇者に力を授ける図書館の館長ウォレスと、勇者の旅立ちを後押しするはじまりの町の魔法使い見習いルチア。勇者が魔王に挑む為のサポートをする、裏方の登場人物たちを主役にした物語。
あとがきではファンタジーと言っているが、ゲーム内の世界、ファンタジーRPGの世界の方がしっくりくるかな。ゲームで一度しか訪れない場所のNPCが普段何しているのかを想像するのは楽しいもの。その想像を人と人との繋がりを軸にして膨らませたのが本作だと思うので。初めの町の少女と終盤の場所の人物を繋げてみたり、初めの町の近くの序盤には倒せない中ボスと初めの町の少女を友達にしてみたり。
感想としては、
文章に癖がなく読み口のいい作品で、自分のことよりも他人の幸せを先に考えてしまう優しい子たちが織りなす物語は、メイン二人の交流やそれぞれの悩みをお互いが影響しあって乗り越えていく姿に心温まる。それに新人賞には珍しく、綺麗に一冊で収まっているので読後感がとても良い。
ただ、新人賞には何か光るもの、オリジナリティを求めてしまう自分には、よくあるタイプの話を無難にまとめた物語と感じてしまい、物足りなさの強い作品だった。
ん?次巻があるの? 世界が救われて、みんな収まるところに収まったのに。文章は上手いし優しい雰囲気もいいので、これの続きより次回作に期待したいが。