いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ニセモノ夫婦の紅茶店 ~あなたを迎える幸せの一杯~」神戸遥真(メディアワークス文庫)

穏やかな海辺の町、千葉の館山にひっそりと建つ紅茶専門の喫茶店『Tea Room 渚』。店を営む“夫婦”には、4つのルールがある。
1.互いの部屋には入らない。
2.共同生活に関わることは一人で判断しない。
3.本当の夫婦でないことは他言しない。
4.どちらか一方の申し出で、いつでも関係を解消できる。
神経質で毒舌な秀二と、社交的で明るいあやめ。訳あって偽装夫婦となった二人のもとを訪れるのは、困った事情を持つお客さんばかりで……。


上司兼彼氏に浮気され飛び出してきた美容師見習いの女性を、開店間近の紅茶専門店店主が拾うところから始まる、家族にはあまり恵まれていない仮初の夫婦が「家族」について考える物語。
女性主人公のあやめと、謎多き紅茶店店主の修二。アンバランスな二人のバランスが良かった。
激情型で何事も感情で動くあやめと、慎重派で周りへの気配りが出来る修二。家電に強いあやめと機械音痴の修二。行動的なあやめと出不精の修二。長所と欠点があべこべで、お互いの欠点を補いあう二人の生活ぶりが、歯車が綺麗に噛み合っているような感じがして、読んでいて心地がいい。性格の違う二人なので口喧嘩は多く、その度に浮き沈みの激しいあやめは落ち込むけれど、読んでいる分には仲が良さそうな口喧嘩に感じる。近所の人やお客さんが誰も偽夫婦だと気付かないのは、この相性の良さゆえなんじゃないかな、と思ってみたり。
話としては、家出や傷心旅行の行先で主人公が親切な人に拾われる話と、店員が訳ありの客に助言したり境遇に共感したりする話の、よくあるテンプレのハイブリッドで目新しさはなかったが、メイン二人のキャラクターと関係性にほっこりできるいい話だった。

あと、誉め言葉にはならないだろうけど、
女性の境遇と職業といい、男性の名前と家族関係といい、大好きな『思い出のとき修理します』を思い起こさせてくれる話だったのが、個人的には良かった。