いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙 IV」支倉凍砂(電撃文庫)

ウィンフィール王国第二位の港湾都市ラウズボーン。ニョッヒラを出て初めての大都市に心躍らせる賢狼の娘ミューリと、教会変革の使命を胸に燃やすコルだったが、二人を待ち受けていたのは、武装した徴税人たちだった。
ハイランドの機転で窮地を脱した二人。どうやら「薄明の枢機卿」と讃えられるコルの活躍が、皮肉にも王国と教会の対立に拍車をかけていることを知る。
このままでは、戦争を避けられない。打つ手無しの中、コルに助け船を出したのは、ロレンスのかつての好敵手、女商人エーブだった。
神をも畏れぬ守銭奴は、果たして敵か味方か。コルは教会、王国、商人の三つ巴の争いに身を投じる――!


デザレフの地を救ったコルたちは島の南、王国第二位の港湾都市ラウズボーンへ。そこで、権力と金と積もった恨みが入り混じった争いに巻き込まれる。
「薄明の枢機卿」――いつの間にかコルの立場が独り歩きして凄いことになっていた。その勇名に臆したわけではないだろうけど、本人は情けないコルに逆戻りしていた。素直で真面目で潔癖なのが彼の魅力なのは分かってはいるが、相手の話を疑っているのにも関わらず信じてしまう人の良さは、そろそろ何とかしないと。ミューリが隣にいなかったら、何度転んでいたことか。
まあ、今回は相手が悪かったのもあるけれど。あのエーブじゃね。
困っているところに出てくるエーブなんて悪魔にしか見えないw でも、コルを手玉に取る手腕を見せながら、僅かで絶妙な詰めの甘さを垣間見せてくれるから憎めない。状況に翻弄されるだけの前半より、エーブが出てきて彼女に翻弄される後半の方が断然面白い。キャラクターが持つパワーは「羊皮紙」より「香辛料」だなと実感してしまった。
と、コルを腐すような感想になってしまっているけれど、話はいつも通り面白い。
「完全な善人もいなければ純粋な悪人もいない」と、人の世の汚い面も捨てたもんじゃない面も見えるストーリーは面白いし、各陣営の思惑と陰謀が渦巻く、三方向か四方向の綱引きのようなバランス感覚は流石の一言。対コルで意気投合しつつあるミューリとハイランドのやり取りも楽しかった。
次こそ大陸へ戻るのかな? ミューリが惚れ直しそうなコルの活躍に期待したい。