いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「きみの世界に、青が鳴る」河野裕(新潮文庫nex)

真辺由宇。その、まっすぐな瞳。まるで群青色の空に輝くピストルスターのような圧倒的な光。僕の信仰。この物語は、彼女に出会ったときから始まった。階段島での日々も。堀との思い出も。相原大地という少年を巡る出来事も。それが行き着く先は、僕と彼女の物語だ。だから今、選ばなければいけない。成長するとは、大人になるとは、何なのかを。心を穿つ青春ミステリ、堂々完結。


階段島シリーズ最終巻。
不幸な偶然の重なりから親に愛されなくなってしまった大地少年の幸せを、七草が、真辺が、堀が、安達が、それぞれの考え方で模索していく。その中で「大人になるとはどういうことか」「幸せとは何か」を、真剣に考え葛藤する彼らの姿を見守る物語。
この感情はどう表現すればいいんだろう。
懸命に一人の子供の幸せ願う彼らの優しさが尊くて。答えのない問題に真剣に悩む姿が美しいけれど、答えを求めてしまう姿は切なくて。純粋に人を信じられる若さが羨ましい反面怖くて。何でも難しく考えてしまう性分が面倒くさくて(主に七草の)。子供の問題に高校生が必死になっていることに、大人に憤って(ねえ、相原さん三島さん時任さん)。優しくて残酷な階段島の在り方に悲しくなって。
色々な感情が混ぜこぜになって一言ではなんと言っていいのか分からない。読んでいる間ずっと感情が忙しかった。
結局、彼らは幸せを掴めたのだろうか。三章の扉絵を見る限りでは現実の二人は一つの形を手に入れたように見える。でも、この物語の主人公である階段島の七草はどうだろう。本人が納得しているようだけど、傍からは悲しいものに見えてしょうがない。
そんな終わり方を含めて、若者たちの窮屈で不器用な生き方が、美しくも切ないシリーズだった。