いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「文具店シエル ひみつのレターセット」さとみ桜(メディアワークス文庫)

うら寂れた商店街の一角にある文具店・シエル。突然店を任された空良は、無愛想な看板猫と共に毎日店に立つ。店にやってくるのは様々な悩みを抱えた人たち。文具にはその用途だけではなく、その先の想いを伝える力があると感じた空良は、彼らに最適な文具を紹介する事で解決に導くのだが、彼女自身も大きな悩みを抱えているようで―。文具によって紡がれる人と人とのつながり。そして込められた想いや願い。読んだあと、心にぽっと温かい光が灯る物語。


勤めていた会社で心に大きな傷を負い、会社を辞め引き篭もった女性が、兄に任された文具点の店番をしながら、お客さんの人生に触れ、少しずつ前向きになっていく物語。
文具店を舞台にした話だけれど、文具より副題のレターセットの方がメインという印象。SNSで傷ついた主人公(と一話目の高校生)が、感情がこもる直筆の字の温かさや大切さに気付いていくのが話の軸なので。あとがきでほとばしっていた文房具愛を、本編にも出してくれればよかったのに。むしろあのあとがきを読んだから、本編に物足りなさを感じてしまった部分もあるかも。
まあ、そこは好みの問題なので別にいいのだが、問題はあらすじの「読んだあと、心にぽっと温かい光が灯る物語」の方。
不幸・不運に見舞われた人が、人との触れ合いの中で幸せ見つけたり吹っ切れるきっかけを貰ったりする定番の人情話にあって、この話は不幸は2倍で幸せは1/2。打ちのめされて実家に帰ってきた主人公は、追い打ちをかける不幸に見舞われるのに、主人公が立ち直っても厳しい現実はそのまま。リアルならばこれくらいが普通なんだろうけど……。
続き前提で書かれているのかもしれないが、これ単体での読後感は苦さが勝つ。物語くらい終いは幸せであってくれ!と思う一冊だった。