いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「葡萄大陸物語 野良猫姫と言葉渡しの王」一ツ屋赤彦(角川スニーカー文庫)

様々な種族がひしめき合い、“葡萄”のように国が乱立する大陸の小国ランタン。流浪の少年メルは、多言語を話せる特技ゆえに、豹人族の姫シャルネの教育係に抜擢される。己の奔放な振る舞いにも常に優しいメルに、徐々に惹かれていくシャルネ。そんな折、大国との政略結婚を控えた彼女は相手の王を怒らせ、婚姻は最悪の形で破談に。二国間の緊張が高まる中、次期ランタン王に任命されたのは、なんとメル!? 王として彼が取った起死回生の策は“シャルネと結婚し、豹人族の協力を取り付ける”というものだった! 言葉を操り、人を繋げ、敗戦必至の大戦に挑む。弱小王国の下克上ファンタジー、ここに開幕!

第24回スニーカー大賞〈金賞〉受賞作


あらすじに起死回生の策や下克上という単語が並んでいたので、野心のある切れ者タイプの主人公を予想していたら、純然たる善人が出てきて驚いた。
そんなわけでこの物語は、人間、亜人、エルフなど多種族が入り乱れる世界で、爪弾き者が集まる国で育った少年が、種族間の壁を取り払い、真の平和を願う壮大なファンタジー
王道ファンタジー、戦記もの、成り上がり、ボーイミーツガール、ネコミミ、幼妻……よくもまあここまでと思うほど好きな要素を詰め込んだ、新人賞らしい作品だった。それでいて破綻せず、一つの物語として成立しているのが素晴らしい。
特に良かったのがキャラクターの性格。
平和を愛する実直な少年で、周りの期待に応える為、一人の女の子を不幸にしないために頑張るメル。そんな彼を信頼し、時に足りな部分を補う素直なじゃじゃ馬シャルネ姫。口下手ゆえに誤解されやすいが実は人一倍優しい姫の護衛のキリン。彼らを中心に、真摯な姿勢と直向きさが作中の人達を動かし、読者は応援したくなる、そんな愛すべきキャラクターたちが、厳しい世界情勢の中、優しい雰囲気を作り出していた。
戦争シーンでさえ、戦う兵士の感情を一番に考えた戦争描写にすることで、メルとシャルネの優しい人柄を表すことに一役買っていたくらい。まあ、戦場の描写は上手くないし(戦況が非常に分かりにくい)、両国軍師の策も平凡で、戦記としてはお世辞にも出来がいいとは言えないのはご愛敬ということで。
優しさに溢れた素敵なファンタジーだった。
続きの予定はあるのだろうか。
綺麗事の理想論をどこまで貫けるのか、豚王のその後は?、キリン様に婿は来るのか(←これ最重要)と、気になることが多いので、是非とも続きも書いて欲しい。
ただスニーカーの金賞って、その後行方不明になるパターン多いのよね(^^;



先日ファンタジアで出た『のけもの王子とバケモノ姫』といい、人と亜人のボーイミーツガール×王道ファンタジー流行の兆し?