いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「秋山野要は愛されている。」石崎とも(電撃文庫)

高一の夏休み。事故にあった秋山野要はベッドの上で目覚めた。三人の美少女に囲まれて――。
今がチャンスだと言わんばかりに、記憶を失ってしまった要に、あること無いこと吹き込もうとする少女たち。
「わたしとらぶらぶだったの!」「要様の心を射止める争奪戦を開始しよう!」「したくない? アタシとキス」
美人な親友に、自称妻、さらには愛人まで現れ……『秋山野要』って何者!?
モテモテすぎる『秋山野要』と、身体が同じなだけの、まるで別人格な自分。
突然、美少女たちの愛を一身に受けることになった要の選択とは――!?


記憶喪失ってこういうもん?
もちろん経験があるわけではないので、絶対におかしいとは言えないが、この主人公の記憶喪失の状態には強い違和感が。元々二重人格で、事故をきっかけに主人格が消えたか寝てるかしている、なら納得が……いや、それだとプライベートな記憶がゼロの説明がつかないか。
ハイスペックでしがらみの多い名家の御曹司の体に、凡人の主人公の魂が入ってしまった物語。というのが最もしっくりくる。
で、肝心の内容の方は、掴みは良かった。
個人を個人たらしめるものは『心』なのか『身体』なのか『記憶』なのか、あらすじの軽さとはかけ離れた真面目な命題に面食らいながらも、三人のヒロインの三つ巴の主張には興味を惹かれるものがあった。
ただ、その後はその問題が大きく取り上げられることはなく、凡人の少年がハイスペックお坊ちゃんの事情に無理して合わせている様子を、ハラハラしながら見守っているだけになるので、正直どこをどう楽しめばいいのか分からない。作者は何が書きたかったのだろう。やっぱりアイデンティティの問題なんだろうか。
結局、何がしたいのかよくわからない作品だった。