いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「夏の探偵は学生しかしない」山本豪志(徳間文庫)

野島芳生は社会心理学科の准教授今井由里子の研究室へ見学に行くため、東央大学渋谷キャンパスを歩いていた。すると人だかりが出来ていて、何事かと事情を聞いてみると女子トイレが盗撮されたらしい。容疑者は猿顔を真っ赤にしながら無実を叫んでいる。研究室に着くと、先程の猿顔は富岡といい、ここの学生だとわかる。状況と事情を聴いただけで、由里子は富岡の無実を証明するという……。


社会心理学科の女准教授が、学生が持ち込んだ事件をズバッと解決する短編連作の痛快?探偵物語
東京の治安が現実より少々悪かったり(よくもまあ人が死ぬこと)、大学生の生態が一昔どころか二昔か三昔前のようだったり(ボロ学生寮のラウンジで男女混じって徹マンとか、今の大学生でもするのかな? イメージ出来ないが)、主人公の学生が小五郎さんかというくらい事件を集めてしまう体質だったりと、現代劇ながら現実感の薄い演出濃いめのタイプの作品。
そこはエンタメ小説なので面白ければ何でもいいのだが、問題は探偵ものとしては致命的に面白くないこと。
准教授が研究室内で学生たちに推理を聞かせる話なので、安楽椅子探偵にカテゴライズされるのだろうが、その推理が穴だらけ。無茶な推論に鬼教官と言われる切れ者美人のキャラクター性で、強引に説得力を持たせているようにしか感じない。なので、探偵ものの華である解決編がまるで美しくない。ものによっては白ける。
暴論でも自分で動いて解決するタイプの探偵ならコメディになるんだろうけど、安楽椅子探偵は推理の論理的な説得力が命だろう。
それでもキャラクター小説として読めば、と思ったのだが、
推理は滅茶苦茶なのに偉そうで、学生に安くないお菓子を貢がせる女准教授は好きになれる要素がなく、主人公の野島は話によって別人に思えるくらいキャラクターが安定しない、ゼミの先輩の一人は本気でウザいしで、残念ながら好きになれそうな人物はいなかった。
色々な意味で好みに合わない作品だった。