いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「Unnamed Memory I 青き月の魔女と呪われし王」古宮九時(電撃の新文芸)

「俺の望みはお前を妻にして、子を産んでもらうことだ」
「受け付けられません!」
永い時を生き、絶大な力で災厄を呼ぶ異端――魔女。強国ファルサスの王太子・オスカーは、幼い頃に受けた『子孫を残せない呪い』を解呪するため、世界最強と名高い魔女・ティナーシャのもとを訪れる。“魔女の塔”の試練を乗り越えて契約者となったオスカーだが、彼が望んだのはティナーシャを妻として迎えることで……。


戦乱の世が過ぎ、五人の魔女が君臨する「魔女の時代」で、一人の魔女と強国の王太子が出会ったことから始まるファンタジー
あらすじからもっと軽い話を想像していたら、世界観も起こる事件も意外と重くて読み応え十分。この世界での魔女をめぐる重厚感あるファンタジーを味わいながら、王太子オスカーと魔女ティナーシャの軽口と憎まれ口の応酬、傍からは仲が良いようにしか見えないやり取りを楽しむ作品だった。
そんなわけで純ファンタジーの世界に浸るだけでも楽しいが、この話のキモは二人の会話と関係性だろう。
初めのうちは、怒ると急にガキっぽくなるティナーシャの言葉遣いに違和感を覚えていたのだが、次第に口調のスイッチの切り替えの早さと、会話のテンポの良さがクセになる。また、好感度よりも呆れや諦めという形で、お互いへの信頼関係が深まっているのを感じられるのが、夫婦みたいでニヤニヤ度が高い。
それでいて、ティナーシャが鈍感なせいで距離感自体はそれほど変わらなかったり、王太子として魔女としてではなく、個人として見てくれているのが相手だけだと気付いていないところに、もどかしさを感じる。
変わりそうで変わらない、でも確実に変わっている二人の関係性を楽しむのに、絶妙なバランスだった。
きな臭い伏線を数多く残したまま次回へ。
次はティナーシャの因縁の相手の話になるのかな? 謎が多く呪いの元凶でもあるらしい、オスカーの母の秘密も気になる。