いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「木曜日にはココアを」青山美智子(宝島社文庫)

川沿いの桜並木のそばに佇む喫茶店「マーブル・カフェ」。そのカフェで出された一杯のココアから始まる、東京とシドニーをつなぐ12色のストーリー。卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる……。小さな出来事がつながって、最後はひとりの命を救う――。あなたの心も救われるやさしい物語。


静かな住宅街の隅ある喫茶店マーブル・カフェから始まる十二編の短編集。
前の短編の主人公と会話したり、話題の中にちらっと出てきたりした人が次の話の主人公になる、人と人で繋がっていく連作形式になっている。各話にイメージカラーが振ってあるのも特長。それぞれの色は納得だけど、全体としてのイメージはなんだろう。淡い色鉛筆か素朴なクレヨンか。どちらも合うなあ。

極上のハートフルストーリーでした。
一話一話はとても短いのに、言葉だけでは形容しにくい繊細な部分に触れているような感覚。人の機微に触れるとは、こういうことを言うんだと実感させてくれる作品。
ミスした店員に常連さんが言った一言、悩む母の目線を変えさせる子供の発想、新婚旅行先で出会った老夫婦との会話……誰かの何気ない言葉が、そっと背中を押してくれたり前向きになる転機になったりと、救いになっていく話がじんわりと胸に沁みる。しかもそれが、前の話で誰かを救った人が、次の話では誰かに救われているという形で繋がっていくので、嬉しさが倍増していくみたい。
そして物語は、一周回ってマーブル・カフェへ。
輪になった人の繋がりに感動しつつ、内容も未来も幸せいっぱいでココアよりも甘いラブレターでお腹いっぱい胸いっぱい。ごちそうさまでした。