いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「吸血鬼に天国はない」周藤蓮(電撃文庫)

大戦と禁酒法によって旧来の道徳が崩れ去ったその時代。非合法の運び屋シーモア・ロードのもとにある日持ち込まれた荷物は、人の血を吸って生きる正真正銘の怪物――吸血鬼の少女であった。
仕事上のトラブルから始まった吸血鬼ルーミー・スパイクとの慣れない同居生活。荒んだ街での問題だらけの運び屋業。そして、彼女を付け狙うマフィアの影。
彼女の生きていける安全な場所を求めてあがく中で、居場所のないシーモアとルーミーはゆっくりと惹かれ合っていく。
嘘と秘密を孕んだ空っぽの恋。けれど彼らには、そんなちっぽけな幸福で十分だった。
人と人ならざる者との恋の果てに、血に汚れた選択が待ち受けているとしても。


大戦と禁酒法によって旧来の道徳が崩れ去り、個人主義が蔓延しマフィアが跋扈する、いつ誰が殺されてもおかしくない死が身近にある街を舞台に、運び屋のシーモアと吸血鬼の少女ルーミーの出会いから始まる歴史風味ファンタジー
前作『賭博師は祈らない』と同じような世界観と歴史設定で、そこにファンタジー要素を足した感じか。こちらの方が治安が悪くて、ハードボイルド感は増している。また、主人公の職業上、アクションがほぼカーチェイスというのが、ライトノベルとしては斬新。アニメ映えしそう(作画がしっかりしていれば)
という、外見の話はこれくらいにして中身の話をしよう。
これはルーミーという銀髪の美少女に、主人公シーモアと一緒に振り回される物語。美少女に振り回される、男のロマンの一つだね。とりあえず青年と少女のたどたどしく甘い空間と、人と怪物の違いに気付いてからの恐怖、その落差が凄い。その後の展開の振り回され具合はそれ以上。
それともう一つ、大戦の傷でどこか壊れている青年と、人間基準ではどこも壊れている少女のアイデンティティの話。
正体発覚後も騙し騙し続けられる二人の日常の中で、シーモア自身の正義と生き様の葛藤と、後から明かされるルーミーの変化。“自分”を形作るものは何かと自身に問い続けながら、生きることにさほど執着のなかった二人が、二人で生きる為に大切な“自分”の一部を捨てる決断に至るまでの変化を描く。ボーイミーツガールやロマンスという枠では収まらない人生の物語だった。
前作に続いてまたライトノベルらしからぬ凄いものが出てきた。
確実に茨の道な二人の行く先は? 謎だらけのルーミーの出生は明かされるのか? 続きも楽しみ。


ネットで見る小さな画像では分からなかったけど、目元には涙があって手の下の口はこんな風に笑っていたのね。最後まで読むと納得の表情。