いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「月とライカと吸血姫5」牧野圭祐(ガガガ文庫)

共和国の宇宙開発が停滞し、上層部の人命軽視と隠蔽体質が現場に重くのしかかる。一方、連合王国は資金力と組織力を武器に目覚しい成果を上げ続けていた。そんな中、レフの同期であるミハイルとローザが結婚するという知らせが飛び込む。しかしそれは、政府によって仕組まれた強制結婚。憤るレフとイリナだが、その先に『史上初の悲劇』が待ち受けていて……。これは、世界が東西に二分され、月を目指し争っていた時代の物語。その表と裏の歴史に、宇宙に焦がれた人と吸血鬼がいた。宙と青春の物語、新章『月面着陸計画編』始動。

舞台は共和国に戻って、再びレフとイリナの物語。
実際の宇宙開発競争に『吸血鬼がいる世界』というifを加えたフィクションで、おおよそ史実と沿った出来事が起こる本作が、競争が過熱し、成功の裏で大きな事故が頻発する60年代後半に突入したら、、、当然こうなるよね。
どう考えても悲劇へと、しかも一直線に向かっていくストーリー。そこに足される史実と違う若さと青春要素。残されるレフたちの悲痛な想いがこれでもかと伝わってきて胸が痛い。特に事後後の彼女の様子は見ていられない。それとイリナさん、このタイミングでレフを飛行機に乗せないでよ。主人公だから大丈夫だと分かっていても怖いわ(^^;
また、その悲劇を引き起こす最大の原因、共和国=旧ソ〇エトの体制の異常性が各所で淡々と書かれているのことに、怖さというよりおどろおどろしさを感じて、後半は「月へ行く」という夢へ進み始めたというのに、重く暗い空気のままの一冊だった。
その後半で史実から大きく逸れたので、レフとイリナにどんな未来が待っているのか分からないのが恐ろしい。でも楽しみでもある。多くのものに目を瞑り切り捨てて進む夢への道に幸せが待っていることを願って。

あとがきにあるように全くライトでない内容だけど、今回のような視覚的な仕掛けが出来るのはライトノベルだからこそでしょう。