いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「夢に現れる君は、理想と幻想とぼくの過去」園生凪(講談社ラノベ文庫)

23歳、職歴半年のニート、僕の立場を一言であらわすとこうなる。
友人であるカッツンの家に居候させてもらいだらけた日々を送っていた僕は、夢をコントロールする方法を記載したブログを見つける。夢の中で死なない、夢に一週間以上とどまらないこと、と注意されつつ、僕は思い通りの夢を見る。その夢の中には、10年前に転校した元クラスメイトの霧崎紗耶香が現れる。彼女は僕の初恋の人で、そして、交通事故で死んでしまった人だった。
彼女との交流で、止まっていた僕の時間が動き出した――。


夢をコントロールする方法を得たニート生活の主人公が、現実では友人知人宅やネットカフェなどを転々としながら、夢の中で初恋の女の子との逢瀬を重ねていく物語。

これはいい。大好きなタイプの作品。
主に雰囲気が好き。
厳しい現実を突きつけられながらも飄々と生きる主人公がまとうゆるさと少々の倦怠感。根はいい人ばかりの登場人物たちが織りなす優しい世界。“初恋の女の子”の甘酸っぱさと話の半分は夢の中という儚さ。色々なものが混ざりあって、主人公は現実でも夢でももがいているというのに、ずっと浸っていたくなるような温かさを感じる不思議な空気感だった。
またストーリーとしては、愛とは何かと問いながら、現実では全くやる気が出ず無気力な主人公が、再び前を向いて立ち上がるまでを描く。いい話ではあるが、はっきり言ってありきたりだ。なのに、何故か言葉に説得力がある。ごく普通の励ましの言葉が、驚きのないラストが、素直に受け止められたり、胸にスルッと入ってくる。人に対する誠実さと、一生懸命過ぎない程よい脱力が良いのだろうか。
どこがと言葉にするのは難しいが、とても良かった。心地いい読書時間だった。