いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「エクストラ・フォーリン・エールワイフ ―異世界の奥さんは日本のビールを学びたい―」阿羅本景(LINE文庫エッジ)

長野義文は叔母の美沙に幼少の頃から恋心を抱いていた。彼女が二年前に病没するまでは――。その後、義文は美沙の忘れ形見である千沙都の未成年後見人となり、同居生活を送っていた。そんな折、突然彼らの家に異世界から勇者の妻が転移してくる。ミサクミラと名乗る彼女は、美沙の生き写しの姿形をしていた。ミサクミラはエール妻(ビール職人)を生業としており、この世界にやってきたのは、豊穣の女神様から優れたエール造りの技を学んで持ち帰る使命を受けたのだ、と宣言する――。これはビールが繋ぐ、縁と絆の物語。


長野家のお風呂に飛ばされてきた異世界の勇者の妻にしてビール職人の人妻が、日本のビールを勉強するライトノベル
ヒロインは人妻、題材はビールという、ラノベといってもどうせ活字なんて読んでるの大人しかいないんでしょ?と言わんばかりの、若年層無視の潔い設定が素晴らしい。
そして、その設定に違わず、プレミアムモルツのような市販の有名ビールから、多数の海外のビール、小さな工房で作られる地ビールまで、ありとあらゆるビールが出てくる。それを未知の味と出会う異世界人のオーバーなリアクションで楽しんでいく。
・・・というのが基本路線なのだけど、
途中から、不幸で健気な少女・千沙都ちゃんの様子が気が気じゃなくなって、ビールとかどうでもよくなる。
「みんな笑顔に」という主人公の信条の元、社会人主人公と中学生従妹と異世界人人妻の三人で、ぎこちなく少しずつ家族の絆を築いていくハートフルないい話なのは間違いない。ただ、ビールを楽しみに読んだので、もっと純粋にビールを楽しめる状況が良かったというのが本音。
あとがきの口ぶりだと続きがありそう。次は千沙都ちゃんの精神状態が安定するだろうから、その未成年と思えないビール知識を存分に発揮してくれるだろう。