いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「解術師アーベントの禁術講義」川石折夫(電撃文庫)

魂に直接メスを入れ患者を蝕む『呪い』を除去する異端の解術師・アーベント。
通常の治癒魔術では治せない呪いでさえも解いてみせるその奇跡の施術は、失敗すれば死亡率100%の禁忌の術だった。
闇医者と疎まれながらも、魔術講師として神学校に勤め、とある目的のために『解術』に取り組む日々。
そんな中、天才魔術師・レイミュの襲撃に次ぎ、校内で生徒が石化される事件が発生。アーベントの手腕をもってしても一筋縄ではいかない呪いの魔の手は、ついに彼の教え子にも及んでしまい――。
外道魔術医の戦いが今、幕をあける!


緊迫の手術シーン、医師のプライド、学会の闇と権力争い。ライトノベルで本気で医療ドラマをやろうとした意欲作。
ミステリアスな魅力のある主人公に、初めは彼を敵視するライバルの存在。女の子多めのキャラクター配置に、コメディとシリアスのバランスの良さ。なにより手に汗握る手術シーンは読み応え十分。
と、基本は抑えられている印象。
ただ、如何せん説明過多。おかげでバランスは悪いしテンポも悪い。
幾重にも重なった主人公の秘密、神と特殊な街(世界)の形態、悪魔・天使の存在、新旧や使う種族で細分化されている魔術……考えたものは全部入れたい気持ちはわかるけど、明らかに設定を詰め込み過ぎた。
説明に追われてほんちょっとのシーンがかなりページ数になっていたり、前後で事実が矛盾していたり(助手必須なら、冒頭の成金親父はどうやって直した?など)、盛り込んだ設定を扱いきれていない場面がいくつもあるがもったいない。
それと、説明過多の煽りもあるのか主人公以外のキャラクターの扱いが雑。レイミュ(パッケージヒロイン)はあっさり心変わりするし、事件の犯人の犯行経緯は行き当たりばったりだし。
光るところはあるが、全体としては「うーん・・・」な新人賞の拾い上げ作品らしい“佳作”な作品という感想。