いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「Iの悲劇」米澤穂信(文藝春秋)

一度死んだ村に、人を呼び戻す。それが「甦り課」の使命だ。
市長肝いりのIターンプロジェクト。公務員たちが向き合ったのは、一癖ある「移住者」たちと、彼らの間で次々と発生する「謎」だった。
人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香(かんざん・ゆか)。
出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和(まんがんじ・くにかず)。
とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣(にしの・ひでつぐ)。
日々舞い込んでくる移住者たちのトラブルを、最終的に解決するのはいつも――
徐々に明らかになる、限界集落の「現実」!
そして静かに待ち受ける「衝撃」。
これが、本当に読みたかった連作短編集だ。


六年前に一度住民が一人もいなくなった集落に移住者を呼び込むプロジェクトを巡る連作短編集。人の死なないミステリ。
一話一話は、プロジェクト担当の市の職員・万願寺が、移住者のご近所トラブルを解決すべく奔走する日常ミステリ。そこにやる気のない課長と新人との人間関係、九年前に合併して大きくなった市の政治と財政、様々な人の思惑が複雑に絡み合っていく。
一度死んでいる集落の重苦しい空気と、かなり難のある移住者たちの性格。仕事への責任感はあっても、情熱や熱血漢とは程遠い万願寺の仕事ぶりなどから、全体的に暗くおどろおどろしい空気が流れる。イメージカラーは灰色。
また、短編集として読むと、本格ミステリばりのトリックを使った話あり、ずっこけそうなオチの話あり、ただの兄弟の世間話ありと緩急が激しい短編集。
と、漫然と読んでいると最後にやられる。と言うか、何かあるだろうと身構えて読んでいたのにやられた。
プロジェクトの結果は始めから見えていて、1話目から課長の胡散臭さと爪を隠している鷹臭はぷんぷんなので、大抵のことには驚かないと思っていのだが……。
そして正義を取るか、現実を取るかを問うラストは「後味苦め」の真骨頂。本のタイトルが「Iの悲劇」でありながら、最終章のタイトルが「Iの喜劇」と付ける辺り意地が悪い。
万願寺がこの後どんな選択をしたのか、わたし、気になります