いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「八丈島と、猫と、大人のなつやすみ」五十嵐雄策(メディアワークス文庫)

六年間勤めた会社を離れ、八丈島で1ヶ月を過ごすことになった川瀬星子。仕事も恋もうまくこなしていると思っていたが、いつも味方になってくれた祖母の死をきっかけに、気持ちの糸が切れてしまったのだった――。
家賃はタダだけど年季の入った古民家の掃除に始まり、畑仕事と釣りで美味しい食材を手に入れ、スキューバや織物を楽しむ。温泉で疲れを癒やすと、いつも見かける猫は島の不思議を教えてくれる。
星ふる島で過ごす、大人にもきっと必要なひと時の物語。

↑作中では家賃二万って書いてあるんですが、、、(編集しっかりしろ)



心身共に疲れ果て仕事を辞めた元OLが、友人の勧めと祖母の日記で見かけた八丈島の記述をきっかけに、一ヵ月八丈島で暮らすことになる物語。
八丈島暮らしの魅力がたっぷりの日々の様子に、ある仕掛けがあって最後に涙を呼ぶストーリーに仕上がっている……と言いたいところなんだけど、前者は良かったが、後者の仕掛けは失敗だった気が。足枷になっていたと思う。
その仕掛けを生かすために、主人公の心情には深く突っ込んで書けない作りになってしまっているので、傷心の主人公が癒されていく様子、タイトルでいうところの「大人のなつやすみ」の部分がほとんど感じられない。しかも、その仕掛け自体はヒントを出し過ぎで、早々に分かってしまう残念仕様。台詞の端々に違和感を用意していあるのに、その上マークはやり過ぎだろう。
主人公が懸命にポジティブシンキングしようと、努力して良いところ探しをしているのて、八丈島の魅力だけは十全に伝わってくるのは幸いなのか皮肉なのか。これじゃあ八丈島観光案内小説だ。
「大人にもきっと必要なひと時の物語」をうたうなら、もっと主人公の内面に触れる物語であってほしかった。