いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ときどき旅に出るカフェ」近藤史恵(双葉文庫)

平凡で、この先ドラマティックなことも起こらなさそうな毎日を過ごす瑛子が近所で見つけたのは日当たりが良い一軒家のカフェ。店主はかつての同僚・円だった。苺のスープなどメニューにあるのは、どれも初めて見るものばかり。旅先で見つけたものを再現し、出しているという。瑛子に降りかかる日常の小さな事件は世界のスイーツによって少しずつほぐれていく。読めば心も満たされる“おいしい”連作短篇集。


主人公のOL瑛子と、彼女が足しげく通うカフェ・ルーズの周りで起こる、ちょっとした問題や疑問を解決していく連作短編集。1話1話が短めで、スイーツになぞらえた謎解き付きの人間ドラマが繰り広げられる。
店長・円の人柄と彼女が営むカフェ・ルーズの雰囲気がとても良かった。
劣等感、嫉妬、マウンティング、八つ当たりと、短いながらも人の悪意がストレートに表現される、苦みの強い話が多いのが特徴。それを人間関係の問題を円の機転で解決し、ささくれ立った心は柔らかく温かい彼女の店が包み込んでくれる。
また、世界のお菓子と飲み物が次々と出てくるので、甘いもの好きの人には飯テロ小説にもなるだろう。
個人的には月替わりのカレーの方に興味があったのだけど、スイーツのように細かく味や見た目は説明はなかった。残念。
1話が短いので軽く読めて(話は軽くないのもあるけれど)、人の機微を味わいながらちょっと一服。そんな楽しい読書時間だった。