いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「終わった恋、はじめました」小川晴央(講談社タイガ)

シュレディンガーの猫」は生と死が重なり合った状態ならば、俺の初恋はシュレディンガーの恋というべきだろう。意地を通し会社を退職した俺に、妹から一年ぶりの電話。病を抱えた高校時代の恋人を捜しに行こうというのだ。彼女の足跡を辿り妹と旅に出た俺が出会う、切なく優しい恋と謎。旅の終着地で俺が目にした終わった恋の結末とは。心に希望が灯る青春恋愛ミステリー。


会社を辞めたばかりの兄と、何者かから逃げている妹が、兄のかつての恋人を探す旅に出る物語。
学生時代の恋心を引きずっている兄(社会人)と、恋愛なんてろくなもんじゃないと言う妹(学生)。どちらかと言えば熱血漢の兄と、聡明ながら冷めている妹。両極端な恋愛観と性格を持つ兄妹が、旅先で出会う人たちの恋愛模様に触れて、自分を見つめ直す「人の振り見て我が振り直せ」ならぬ「人の恋見て我が恋直せ」な話だった……のか?
というのも、小学生のピュアで切ない三角関係、高校生4人組の複雑な矢印、不器用な大人の不格好で強烈な愛の形。関わった人たちの恋愛模様はどれも心に残る印象の強いものなのに、どんな恋愛模様に触れても兄妹の心が動いたようには思えないから。恋人が難病だった兄だけでなく妹の方も、未練を断ち切るため、何かに踏ん切りをつけるためという、という空気が最初から最後まで変わらない。
それだけに、この結末は予想してなかった。
彼らがこの旅で感じたものが生きるのはこの先だと思うので、2つの恋の行く末がとても気になるけれど、それを語るのは野暮になるんだろうなあ、やっぱり。
どんでん返しのハッピーエンドは驚いたし嬉しかったのだけど、話としてはやや消化不良。