いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「石黒くんに春は来ない」武田綾乃(幻冬舎文庫)

学校の女王・京香に告白し振られた石黒くんが意識不明の重体で発見された。クラス全員に失恋をバラされたショックによる自殺未遂かと思われたが、学校は知らん顔。しかし半年後、名ばかりの偽善グループライン「石黒くんを待つ会」に、病院で眠り続けているはずの本人が参加し大混乱に。〝復活〟は復讐の合図!? 弱肉強食だった教室の生態系が崩れ出す。


女王様を頂点にしたトップカーストの自分勝手で無自覚な悪意、事なかれ主義の担任、学校の隠蔽体質。それらのことが一人の少年の事故によって明るみになり、クラスは不穏な空気に包まれる。そして弱者たちの復讐劇が始まる……。

人間のエゴと悪意、学校のクラスの人間関係の闇を凝縮した物語だった。作者の代表作『響け!ユーフォニアム』も部内のドロドロした人間関係を描くが、これはドロドロの部分だけ抽出して煮詰めたよう。
また、その闇に対抗する弱者たちの復讐劇がそれに輪をかけて陰湿。そこにLINEという現代のコミュニケーションツールの特性、要するにSNS・ネットの匿名性が合わさって、復讐者たちの悪意の凶暴性が増していく。特に一歩下がった位置に立ち、暴走に静止を掛けようともしていた、一人冷静な判断が出来ていた恵(主人公、この作品のメイン視点)が、その悪意に飲み込まれていく様子は下手なホラーよりも恐ろしい。
そんな猛烈に胸糞悪い話なのに、復讐劇の結末にどこかスカッとしている自分がいる。清水先生には後ろ指さして全力で罵倒してやりたいもの。
人間の悪意の連鎖に恐怖するとともに、弱者たちの、主に諦めの台詞にセンセーショナルな言葉が沢山あって、ハッとさせられることの多い作品だった。

LINE怖いわー。
この時代の学生じゃなくてよかったと本気で思うオッサンなのであった。