いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「活版印刷三日月堂 空色の冊子」ほしおさなえ(ポプラ文庫)

小さな活版印刷所「三日月堂」。店主の弓子が活字を拾い刷り上げるのは、誰かの忘れていた記憶や、言えなかった言葉――。弓子が幼いころ、初めて活版印刷に触れた思い出。祖父が三日月堂を閉めるときの話……。
本編で描かれなかった、三日月堂の「過去」が詰まった番外編。


活版印刷日月堂、番外編短編集その1
弓子以外の視点で過去の出来事が語られる。本編も最終話以外は弓子視点ではないので、いつも通りとも言える。

どれもこれも泣かせに来る話ばかりじゃないか。これは外では読めない。
死別、離婚などの人との別れ。諦めたかつての夢。どの話も大きな喪失、大きな別れを経て、悩み苦しんだ末に小さな幸せを見つける、そんな短編たちだった。
自分が死が近くにある物語に弱いというのもあるが、本編でその後どうなったか知っている話があるのも涙を誘う一つの要因。悲しいことの後の安堵や幸福はホント涙出る。
七編ある中で一番泣けたのは弓子の祖母が主役「届かない手紙」。母を亡くした幼い弓子の健気さと、タイトルの意味が解る祖母の一言ですでにうるうるだったのに、その後の祖父の「人には優しくされた記憶が必要だ」で堪え切れなくなった。
次点で、弓子の父・修平が主役で最も悲しみが深い「星と暗闇」と、友人視点で弓子本人の涙がある「引っ越しの日」か。強い人が泣く、これもまた涙を誘う。
今回が過去だったから、来月刊行予定の番外編短編集その2は未来の話?