いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「時は黙して語らない 古文書解読師・綱手正陽の考察」江中みのり(メディアワークス文庫)

古文書に傾倒し、周囲から“解読師”と呼ばれる歴史学専修の院生・綱手。研究室で見つかった古文書の返却を任じられた綱手は、瀬戸内海の小さな島を訪れる。同行者のトラブルメーカー・相馬に振り回されつつ返却を済ませた綱手だが、連続殺人事件に遭遇してしまい……。島に伝わる『白妙姫伝説』を模した殺人、白妙姫の生まれ変わりと信奉される少女、内容が欠けた謎の手記――。綱手は古文書を読み解き、歴史の陰に隠された真実に光を当てる。


研究室の掃除中に見つかった未返却の古文書を返す役目を押し付けられた院生・綱手。無事に返すことは出来たが、帰る直前になって島の伝説を模した連続殺人事件に巻き込まれる。といった古文書×サスペンス。

主人公の網手は古文書を解読することで、相方の相馬は伝承の聞き込みと話の断片を繋げる想像力で、異なるアプローチから島の伝説とそれにまつわる祭りの成り立ちを紐解いていく過程が、民俗学歴史学のフィールドワークを間近で見ているようで面白かった。
ただ、それが物語の面白さに繋がっていたかというと、、、微妙。
島の伝承の謎解きはせいぜい動機面の裏付け程度と、本題の殺人事件との関連が希薄。また当人たちは事件に巻き込まれている感覚が薄く、何のために島の伝承を探っているのか、というかむしろ、何のために彼らの周りで殺人事件を起こしたのかと思う程、島の伝承と事件が別のものになっている。犯人は途中で言ってしまったようなもので犯人捜しの面白さもなく、歴史学にサスペンスをくっつけた意味が感じられない。
それと、これは好みの問題だが、主人公の綱手の過度に卑屈でおどおどしている態度が不快で、特に慣れない序盤は読むのがきつい。
民俗学好きミステリ好きとしてはテーマは面白うそうだっただけに、性格の好みの方はともかく、島の伝承を紐解くのと事件の解決編を上手く結びつけられなかったものかと、残念に思う作品だった。