いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「さよならの言い方なんて知らない。 3」河野裕(新潮文庫nex)

男は毎日、同じ行動を繰り返す。起床し、新聞を読み、改札で電車を待つ。月生亘輝。架見崎で最強と称される人物。そんな月生に対し、遂に二大勢力が行動を起こす。チーム内で派閥抗争が続く「PORT」。実質的指導者の交代で揺れる「平穏な国」。それぞれの思惑が交錯する共同戦線で、香屋歩は何に怯え、何を考え、どのような真実を見出すのか。死と涙と隣り合わせの青春劇、第3弾。


架見崎No.1チーム「PORT」とNo.2チーム「平和の国」の共同戦線による、最強プレイヤー月生討伐作戦。そこに渦巻くそれぞれの陣営の思惑と、月生を生かしたい香屋の暗躍が描かれる。
暗躍なんて言ったら本人に怒られそうだけど、存在が胡散臭いからしょうがない。香屋の方が、本心を語らず底が知れないPORTのリーダー・ユーリイの10倍は胡散臭いもの。それが証拠に、今回もまた香屋の一人勝ちのように見える。
それはともかく今回は、架見崎の本質である戦争が熱い回だった。
初戦の月生vs選抜チームのアクション性の高い頭脳戦。二戦目の月生vsユーリイの腹の探り合いから始まる乱戦。人の想い、心情を重んじるこのシリーズには珍しく、バトルに戦略性と死と隣り合わせの緊張感があって白熱していて面白かった。
ただ、どうしたって気になるのは登場人物たちの個人の動向の方で。もちろん、香屋の思惑も含めて。
多くの人物が関わった事件だけあって、主要メンバー何人かの目的や能力の内容が明るみになったり、これまでで最も手札が開示されていた。
中でも気になるのが、香屋・秋穂・トーマの三人以外にも繋がった『ウォーター&ビスケットのテーマ』と、このアニメに込められた制作側の意図。そしてそれに伴って語られる、何人かの「生きる」ということへの価値観。または理由付け。なるほど、これがこのシリーズの根幹の一つか。ここまで読むと、スニーカー版のタイトルの方が合っている気がする。
……と思ったら、最後の最後にnex版タイトルに繋がりそうな、これまでの前提を覆しかねないとんでもない爆弾が投下されていった。
前から黒猫の体が残っていることに疑問はあったけど、架見崎における死とは? 死んだら元の世界に戻るのは本当か? 逆に彼女はどうやって架見崎に来た? それはもう?マークばかりで続きが気になる。